■ 「バイスタンダーCPRあり」って本当ですか


2017/3/2 薬師寺 泰匡(岸和田徳洲会病院救命救急センター)

 前回は、非常にシリアスな話になってしまいました。バグったわけではありません。いつもゲームとか音楽とかTKGのことばかり考えているわけじゃないんだなとでも思っておいてください。さて、というわけで今回は前回の続きになります。前回の続きなので、導入は前回と同じです。

 明け方にホットラインが鳴りました。「102歳女性、CPA。朝、家族が発見。最終確認は昨日23時。初期波形Asys。バイスタンダーCPRありです」

 僕がこのホットラインを受けたときに「何だかなぁ」と感じた2つ目のポイントは「バイスタンダーCPRあり」というところです。普段気にした事がない方だと聞き流してしまうようなポイントなのですが、僕のモヤモヤを解説していきます。

バイスタンダーって何なンダー?
 バイスタンダーというのは英語のbystanderのことです。何かの側という距離感を表す「by」に、立っている人という意味の「stander」が合わさっているので、「側にいる人」という意味になります。


 救急においてバイスタンダーとは、救急現場に居合わせた人と言う意味になります。バイスタンダーCPRというのは、「心肺停止の場に居合わせた人による心肺蘇生」のことです。心肺停止の場に居合せるというのは、僕の認識では「今止まった」のを目撃したということです。

 年齢のことはいったん抜きにして考えると、心肺停止患者さんが社会復帰するために必要な条件として重要なのは
(1)心肺停止の瞬間が目撃されている
(2)有効なバイスタンダーCPRが実行された
だと思っています。

(1)心肺停止の瞬間が目撃されている
 その瞬間が目撃されていないと、なかなか助かりません。よく知られているカーラーの救命曲線やドリンカーの救命曲線では、心停止(CPA)後、何もしなかった場合の救命率を経時的に表しています。それによれば、およそ10分放置すれば助かりません。何分までなら放っておいても大丈夫か、なんて研究しようがありませんが、CPAになれば当然頭に酸素がいかなくなりますので、脳細胞が損傷を受けるのは自明です。

 一方で、早く気づいて適切に心肺蘇生(CPR)を行えば、蘇生までの時間が長くなっても助けられることがあります。愛媛県で3年前、救急搬送中にCPAになりながらも、82分後に心拍再開したというニュースがありました。すぐに介入すれば、時間がかかってもこうやって蘇生につなげることができるのです。

(2)有効なバイスタンダーCPRが実行された
 「有効な」バイスタンダーCPRというのも本当に重要です。無効なCPRとは、すなわち何もしていないのと同じです…。ちなみに、バイスタンダーCPRを行なったのが一般人だったか医療従事者だったかで、蘇生率は変わってしまうということが分かっています1)。

 今回102歳の老婦人を発見した家族さんは、同居する娘さんでした。おそらく年齢は80歳前後。朝、母親の様子を見に行ったところ呼びかけに反応がなかったので救急車を呼んで、そのときに司令室から胸骨圧迫するように指示されたと思います。僕らみたいな若手救急医が2分間やるだけでもしんどい胸骨圧迫を、しっかり適切に行える80歳は世の中にどのくらいいるのでしょうか。個人的には80歳になっても有効な胸骨圧迫ができるように日々鍛えたいなと思いますが…ちょっと大変だ。