■ 救急医と遺伝性血管性浮腫


2017/4/6 薬師寺 泰匡(岸和田徳洲会病院救命救急センター)

 先日、遺伝性血管性浮腫フォーラムというイベントに参加して来ました。遺伝性血管性浮腫って何やねんって話ですよね。遺伝性血管性浮腫(HAE:hereditary angioedema)は名前の通り、遺伝性変化により起こる血管性浮腫です。血管性浮腫は組織の深部に起こる浮腫で、局所的な血管透過性亢進が原因と考えられています。蕁麻疹と異なり、境界は不明瞭で痒みも伴いません。皮膚や気道、消化管に発生し、ドイツ人医師のクインケにより報告されたのでクインケ浮腫と呼ばれてきました。


 HAEはC1エステラーゼインヒビター(C1-INH)活性の先天的、もしくは後天的な欠損が原因で血管性浮腫が起こるとされます。C1-INHは補体系や凝固系の因子、キニン系を抑制しますが、欠損するとキニン系を抑制できなくなり血管から水が漏れ出て浮腫が生じます。NEJMに、典型的かつかなり強烈な写真が載っていますので、ぜひ見てみてください。

 この疾患は、次の2つの点から診断が困難です。
(1)激レアである
(2)症状が様々である

激レア度について
 日本での患者数は、500人足らずというところです。海外の頻度(5万人に1人)を考えれば、日本にも現状の4〜5倍くらいの患者さんが潜伏しているのではないかと推測されていますが、何せ医師の間でもあまり知られていない疾患です。各科の医師対象に行ったアンケート調査によれば、救急科の医師の中で知っているのは40%くらい、全体でも45%程度の知名度となっており、知名度の低さが明らかになっています。


(出典:Isao Ohsawa, et al. Pharma Medeica. 2011; 29: 109-118.)

症状が様々な件
 典型的な症状は皮膚の浮腫、腸管粘膜の浮腫による腹痛、喉頭浮腫による窒息とされます。ただし、これら全てが揃うのは50%程度とされています(Agostoni A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2004;114:S51-131. )。

 皮膚症状は典型的には顔と陰部で、痒みはなく、圧痕浮腫ではなく、紅斑を作りません。少しだけ唇が腫れるだけという人もいれば、手足が腫れる人もいます。とりあえず、境界不明瞭な浮腫を見たらHAEを考えましょう。

 腹部症状としては、70〜80%の人に腹痛が認められるといわれております。軽度のものもあれば、嘔気・嘔吐を伴う激烈な腹痛があることもあり、HAEと診断されていない患者の3分の1が急性発作の際に開腹手術を受けてしまったという報告もあります。診断がついていても、他の急性腹症との鑑別は難しいかもしれません。

 喉頭浮腫を起こす頻度は高くはないですが、HAE患者の半数が一生に一度は経験するといわれています。過去には30%近い人が窒息で死亡しておりましたが、近年診断と治療が進歩したため死亡率は激減しているということです