■ 不登校・ひきこもり(メディカル朝日アーカイブ)


2017年04月07日(金) 12:00 公開 田中 英高 MedPeer News編集部 医療
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症例
患者:A君、高校1年生。
 中学2年の6月頃から頭痛、倦怠感が出現。2学期に悪化し、朝に起きられず遅刻、欠席を繰り返す。近医での諸検査で異常はなく、様子観察を指示された。

 中学3年でさらに悪化。親が起こしてもなかなか目覚めず、フラフラする、頭が痛いと訴え、起床できるのは昼過ぎになった。途中から登校を嫌がり欠席が続いた。親が外出を促しても、誰かに見られたくない、とひきこもり状態が続いた。起きている時は“ゲーム三昧”。早く寝るように𠮟っても、寝られないから仕方がない、と明け方までゲームを続ける。ついに昼夜逆転の生活になり、動かずゴロゴロしている。

 もともと友達は少なく、たまに遊びに来てくれても、身体がだるい、頭が痛いと言って会わない。学級担任が訪問しても会おうとしない。親が近医に相談したところ精神科を紹介された。本人を説得して受診したところ、「うつ病」と診断。しかし抗うつ薬の服用でさらに気分が悪くなり、一日中寝ているようになった。養護教諭に勧められて小児心身症専門医を受診した。

 専門医がこれまでの経過を聴取したうえで、心身医学的診断の重要項目である生育歴を訪ねたところ、A君には性格的に変わったところがあった。幼稚園時から集団行動が苦手でこだわりが強く、行事への参加を嫌がった。親の指示が守れずマイペースで行動する傾向があった。小学校では教師の言いつけが守れず𠮟られることが多く、友達からいじめられることもあり時々欠席した。専門医は身体疾患、発達上の問題、心身症を疑い、身体的診察から開始した。

 一般診察、血液検査に異常を認めなかったが、起立性調節障害(OD)の確定診断法である新起立試験を行ったところ、起立直後の血圧回復時間が30秒(正常は25秒未満)であり、OD(サブタイプは起立直後性低血圧)と判定した。学業低下の訴えがあったのでウェクスラー知能検査を行ったところ、言語性発達は平均であったが動作性が低く、プロフィールに凸凹があり、発達上の問題を認めた。A君は集団生活でのストレス、学業上の問題という心理社会的背景が関与した「心身症としてのOD」を発症したと診断された。

概説
 不登校とは「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因や背景により、児童・生徒が登校しない、あるいはしたくともできない状況にあること」とされる。

 不登校は診断ではなく状態(症状)である。典型的な不登校では次の3期が見られる。

1. 身体症状を訴えて欠席が増加する時期
2. 学校を休むことで身体症状が消失し、家庭内で安定する時期(この時期、意欲低下や暴力が出現することも)
3. 社会適応(再登校)に向けて回復していく時期

 15歳時の不登校児の約7割は社会復帰するが、その一方で自信喪失、家族関係悪化による長期のひきこもりなど二次的問題が生じるケースもある。したがって早期に適切な対応を行う。(1)症状や訴えから不登校を疑い、(2)不登校やひきこもりの背景にある身体的、心理社会的問題を診断し、(3)小児科医として可能な範囲の治療を行い必要に応じて専門機関へ紹介、(4)家族、学校と適切な連携をとること、などが望まれる。日本小児心身医学会が作成した「小児科医のための不登校診療ガイドライン」*が役に立つ。

みる・きく・さわる 診察のポイント
子どもの症状や訴えから不登校を疑う
 不登校の初期には、「登校したいが登校できない」という心理的葛藤から自律神経失調症状が出現する。全身倦怠感、朝起床困難、頭痛や腹痛などの多彩な症状があり、その程度や場所が変わりやすく、一般的な検査では異常が見つからない。行動面では、頭痛・腹痛などの理由で登校前にグズグズする、学校に欠席の連絡をすると症状が緩和される、金曜の夜から元気になるか、日曜の夕方からグズグズするなどの特徴がある。これらの症状があれば不登校を疑う。

検査・診断・対応
1.身体疾患を見落とさない
 貧血、甲状腺疾患、OD、過敏性腸症候群、片頭痛等を併発することがある。一般的な検査(血液検査、尿・便検査)に加えて該当する検査を行う。A君のように朝起床困難、立ちくらみがあればODを疑う。ODの併存率は不登校の約3〜4割以上と高頻度であり、見逃さないようにする。日本小児心身医学会のガイドライン*に沿って新起立試験を含めた診断を行う。摂食障害などの基礎疾患の発見には成長曲線の記入や二次性徴の評価を行うが、同じく同学会ガイドライン*があるので参考にする。

2.発達障害の存在
 A君のように発達の遅れや偏りが基礎にあると、学校など集団生活で不適応を起こし不登校を生じやすい。学業不振では精神遅滞や学習障害を、トラブルを起こしやすい場合はAD/HD(注意欠陥/多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム)を疑う。生育歴で「育てにくかった」「しつけが難しかった」「指示が通りにくい」「友だちと遊べない」などがあれば疑いが強い。学校と連携し、地域の療育施設や発達障害を専門とする医療機関等へ紹介する。親・保護者が子どもに過干渉であり不安が強い場合、子どもだけでなく親・保護者へのカウンセリングも必要。

3.精神疾患への対応
 意欲の低下、寝られない、食欲低下がある(うつ状態)、こだわりが強く同じ動作を繰り返す(強迫行動)、幻聴・極端な不安緊張・感覚過敏・いつも誰かに見られている感覚(統合失調症の疑い)、イライラ・不安(不安障害)、リストカットなどの自傷行為、家庭内暴力などがあれば、早期に児童思春期精神科あるいは思春期専門外来へ紹介する。

4.いじめ、虐待(ネグレクト)への対応
 不登校の背景として、いじめ(SNSなどによる「学外いじめ」も含む)は重要である。発見が極めて難しく長びくと自殺の原因になる。疑わしい時は早期に親・保護者・教育機関と十分に連携する。家庭での虐待も発見が難しい。子どもの身体的成長の遅れ、やせ、情緒不安定、親・保護者の不審な態度があれば速やかに児童相談所、市町村子育て支援センターへ通告する。

トリアージ!! この症状にはこの対応
A:早急に専門病院に紹介すべき状態
 精神疾患(とくにうつ病)が疑われる場合。好きなゲームもせずボーッとする(気力の消失)、自分は駄目だと感じる(自罰傾向)、なぜか涙が出る(悲哀感情)、精神不安定(イライラなどの焦燥感)などを問診し、該当すればうつ病を疑う。高校生では頻度は高くなる。食欲低下による体重減少(1カ月に3kg以上)があれば、早急な治療が必要。

B:翌日以降に専門病院への紹介を考慮すべき症状
@不機嫌で家族ともほとんど会話をしない状態が続く、あるいは暴れたり暴力を振るう場合

A昼夜逆転(朝方眠りについて夕方まで寝ている状態、1〜2時間ずつ睡眠がずれていく)の睡眠リズムが、3カ月以上続く場合

B不登校が1カ月以上続き、朝起床困難、倦怠感、頭痛・腹痛が強く外出できず、家庭生活にも支障がある場合

C:クリニックでの対応で完結する場合
 初期1カ月は1週間に1回、それ以後は2週に1回などの定期的な通院が望ましい。

@生活リズムが乱れている時期は、登校を促さずその改善を図る。教師や友だちと会いたがらなくても、それを受け入れつつ家族関係が悪化しないように指導する。

A家庭で退屈して学校のことが気になり始めたら、部分的な登校を提案する。学校との連携により、別室登校や適応指導教室などフレックスタイムでの登校を勧める。高校生以上では週1〜2回の気楽なアルバイトを提案する。

B徐々に登校を再開すると、友だちや先生との間で問題が発生し、子ども自身の持つ課題が明確化しやすい。対人関係や学習など、子どもの課題を解決するために、家族—学校—医療機関と連携した援助を行う。

* 日本小児心身医学会編:小児心身医学会ガイドライン集(改訂第2版):「小児科医のための不登校診療ガイドライン」「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン」「小児科医のための摂食障害診療ガイドライン」:南江堂、2015

Column 専門医からひとこと
子どもに再スタートの勇気を与えるポイント
 不登校診療のポイントは、子どもが再スタートできるように“身体症状を切り口”として支援すること。不登校の背景にある心理社会的問題の解決には時間がかかるが、別の見方をすれば、子どもと家族にとって「大切な試練の時期、人生の軌道修正かも」と親・保護者が悟れるように導く。

 劇的な変化を期待するより根気良く見守り続けることで、子どもや親・保護者と心が通じ合い、その絆が子どもに再スタートの勇気を与えていくことになる。

 以下にポイントを述べる。

親・保護者の気づきを促そう
 なんらかの心理社会的ストレスが背景にあり、学校に行きたくないという気持ちが関係している可能性を伝える。親・保護者に思い当たる点がないか確認する。検査値のわずかな異常をあたかも症状の原因のように説明すると結果的に親・保護者の気づきを遅らせてしまう。

子どもへの説明のしかた
 子ども自身は「行きたいのに、症状があって行けない」と思っている。医師の「気の持ち方が大切、頑張って登校しよう」は禁句。「自分は頑張っているのに分かってもらえない」と不信感を持つ。最初は不登校に伴う症状だと言わず、「命に関わるような大きな病気でなくても体調不良が続くことはある。すぐに治らなくても、少しずつ軽くしていくことはできる。その方法を一緒に考えよう」という説明が分かりやすい。「体調の良い時には1時間でもいいし別室でも構わないので登校しよう」と伝える。家にひきこもると、運動不足でかえって症状が悪化すること、悪化を予防するため定期的に通院する必要性を伝える。通院を重ねて、徐々に子どもが医師に慣れてきたら、「ストレスは体に悪いけど、何かストレスがない?」と質問してみる。クラスの状況を少しずつ吐露するようになる。その時にはコメントは差し控えて傾聴することに徹する。

学校などの教育機関との連携
 学校との連携の目的は、@学校での子どもの状態について具体的な情報を得る、A現在の子どもの心身状態について情報を共有する、Bそのうえで治療に関する役割分担を行う、ことである。スクールカウンセラーや適応指導教室を利用できるので、親・保護者に学校や教育委員会に問い合わせましょう、と提案する。学校との連携においては守秘義務に留意し、必ず家族の同意を得てから情報提供を行う。

※ メディカル朝日(朝日新聞出版刊)2016年8月号に掲載された記事を転載しています

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