■ 「子どもにいぼ痔ができた」と言われたら

第35回

2018/3/7 横井茂夫(横井こどもクリニック)

 保護者への説明が難しい、子どもの生殖器官の症状。今回は、肛門周囲によく生じる症状の説明方法をご紹介します。皆さんは、保護者にどのように説明していますか?

 保護者から「子どもに痔ができた」と言われても、いぼ痔(痔核・脱肛)ではないことが多いです。大抵は肛門にできる皮膚のたるみで、スキンタッグ(皮垂)です(写真1)。まれに皮垂をいぼ痔と誤って診断して手術を勧める医師もいますが、皮垂と脱肛は異なります。


写真1 肛門のスキンタッグ「皮垂」

 仰向けで両脚を持ち上げたときに12時の位置にできやすく、女児に多く見られます。排便時の痛みなどは特にないことがほとんどです。教科書では便が固くなり、排便時に切れて出血した後にできやすいと書かれていますが、便秘や便が固いこともなく、排便時に出血したことがない子どもでも多く見られる印象です。1〜2年程度で消失しますが、保護者が心配している場合は経過観察としています。

 一方、いぼ痔は「肛門にできた静脈瘤のようなもの」で、だいたいはうっ血すると腫れ、うっ血が取れるとしぼむというように大きさが変化します。しかし、皮垂は皮膚のたるみであるため、排便時に力んでも腫れることはありません。


写真2 肛門周囲膿瘍(提供:千歳台きたのクリニック北野良博氏)

 肛門周囲膿瘍は生後1〜4カ月ごろの乳児に見られる病態です(写真2)。発症には2つの原因が考えられます。1つは肛門の奥の肛門陰窩に開口する肛門腺の細菌感染により、膿瘍が皮膚に及ぶもの(乳児痔瘻とも呼ぶ)。もう1つはおむつかぶれによる皮膚からの感染を原因とするものです。

 乳児痔瘻は圧倒的に男の子に多く、立位になって歩き出すと完治する例が多いです。この病気は、下痢や軟便が続いた後に肛門の周りが赤く腫れて膿を持つようになって起こります。乳児では痛みのため機嫌が悪くなり、よく泣くようになります。

 処置は、圧迫排膿療法による保存的な対応で十分です。抗菌薬の内服や皮膚の消毒、抗菌薬軟膏の塗布などは不要です。乳児への抗菌薬投与は下痢を生じやすく、病状をさらに悪化させる可能性があります。なお、局所が明らかに膿瘍化し、腫れて熱を持って波動を認めた場合は注射針で切開し、圧迫排膿を行います。

 私は、初発の肛門周囲膿瘍で下痢がある場合は整腸薬を投与し、排便ごとにできるだけお尻をシャワーで洗うよう指導しています。抗菌薬の内服はせず様子を見て、腫れが強くなり、波動が感じられるようになったら21Gの注射針で皮膚切開をして圧迫排膿をします。3日間連日来院してもらい、外来で圧迫排膿をして乾ガーゼを当てて排膿を続けます。その後、切開口が閉じたら下記の生活指導をします。

 生活指導では、お尻を必要以上に湿らせず清潔な状態で維持し、下痢や便秘にしないことを目指すよう伝えています。排便後は必ずお湯でお尻を洗い、ドライヤーなどを用いて乾燥させ、保湿クリームを塗ります。

 食事はにんじん・かぼちゃ・さつまいもを離乳食に毎日取り入れるようにして、柔らかめの「バナナうんち」をさせることを目標にします。母親には「男の子だけがなる病気で、お尻をきれいにするように心掛けていれば歩けるようになる頃には治るので、頑張りましょう」と話すようにしています。

 治癒後、何度も繰り返す場合は漢方薬の処方を始めるか、小児外科への紹介を考えます。再発した場合は、漢方薬の十全大補湯を1日に0.1〜0.3g/kg処方し、1日3回に分けて2歳の誕生日まで飲ませます(味がマイルドなためツムラのエキス顆粒がオススメです)。漢方薬を投与して治療をしても、瘻管が触れる場合や何度も繰り返す場合、2歳を過ぎても症状が再発する症例、初発が2歳以上の場合では基礎疾患が隠れていたり、瘻管摘出術が必要になったりする場合があるため小児外科医への紹介を検討してください。