■ 幼児的万能感

信者のASC到達を導く構成要因を次々と駆使した教祖について、日本脱カルト協会代表理事で、立正大学心理学部対人・社会心理学科教授の西田公昭氏はこう分析する。


「麻原は巧妙な催眠術師でもありました。彼は盲学校を卒業後、東大進学を目指したが、挫折した。この時の屈辱感から、自己愛を傷つけられた人間がどんな心情に陥るかを体感的に分かっていた。一方、人間とは、子どもの頃、サッカー選手やノーベル賞を獲るような科学者になりたいといった夢を描くもの。普通は成長の過程で厳しい現実と折り合いをつけるのですが、オウムに入信した高学歴信者には、この『幼児的万能感』を諦められない人が多かった。医師であれば、救えない患者に出会う場面は必ず訪れ、そこで無力感に苛まれます。麻原はそういう悩みを抱えながら近づいてきた人たちが、どういう言葉をかけてもらえれば、救われるのか、熟知していた。“君の能力はオウムにいてこそ役に立つ”などと囁かれれば、『万能感幻想』が満たされます。それを求めて、彼らが自ら教祖を神格化した。麻原の対人操作能力に踊らされたのです」