■ ミルメシア

ミルメシア(mycmecia)は、主に手掌(手のひら)・足底(足の裏)に出来る疣贅(イボ)の一種です。

どの年代の方にも生じるものですが特に子供に生じやすい傾向があります。足の裏に出来ると鶏眼(魚の目)と間違われる事もありますが、通常、鶏眼は子供には珍しいため、子供の足にイボのようなものが出来たらミルメシアも疑う必要があります。

疣贅(イボ)は基本的にはウイルス感染が原因です。皮膚のあらゆるところにできますが、その中で特定のウイルス(HPV-1)が原因となり、手のひら・足の裏に出来るものを「ミルメシア」と呼びます。

ミルメシアは「痛み」を認める事があり、他の部位に生じた疣贅と比べると苦痛を感じやすい疣贅になります。

ミルメシアは基本的には予後は良好な疾患で悪性のできものではありません。しかし痛みを生じる事からも患者さんの苦痛も大きく、なるべく早い段階で治療した方がよいものになります。

ここではミルメシアという疾患について、その原因や症状、治療法などを詳しく説明させて頂きます。





1.ミルメシアとは

ミルメシアとはどのような疾患なのでしょうか。

ミルメシアはいわゆるイボ(疣贅)の一種で、専門的には「ウイルス性疣贅」に属します。ウイルス性疣贅は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが表皮に感染することで発症します。

何らかの原因によって皮膚の一番表面の層である「表皮」にHPVが入り込むと、そこでHPVは増殖します。増殖したHPVは表皮を構成する角化細胞という細胞に感染し、その機能に異常を生じさせます。すると角化細胞はウイルスのせいで正常に分化(≒成長、発達)できなくなります。

その結果、表皮に疣贅(イボ)が生じてしまうのです。

HPVにも多くの種類があります。ミルメシアはその中でもヒトパピローマウイルス1型(HPV-1)が原因となります。

ミルメシアは生じる部位、疣贅の形状、個数と症状に特徴があります。主に手の平(手掌)・足底(足の裏)に発症し、通常は1個のみ発症し、他の疣贅のように多発する事はあまりありません。

ミルメシアは「噴火口状」と呼ばれる特徴的な形を呈する事が多く、この形状が診断の一助になります。「ミルメシア」という名称も「蟻塚(ありづか)」という意味です。蟻塚(蟻の巣の入り口)もちょうど火山口のように中心部がへこんでいますが、ミルメシアはこのような形になる事が多いのです。

ただし必ず噴火口状になるわけでなく、ドーム状など一般的な疣贅の形状を取る事もあります。

他の疣贅と異なり、皮膚の奥にまで進行する傾向があり、これにより痛みを伴う事があります。特に足底にミルメシアが生じると、痛みから歩けなくなってしまう事もあります。一般的な疣贅(イボ)はほとんど痛みは伴いませんので、ここは違いの1つとなります。

通常の疣贅は、特に自覚症状はないため、本人が気にならなければそのまま治療せずに様子を見る事もあります。しかしミルメシアは進行すると痛みを伴うため、早めに治療をした方が良い疾患になります。



2.ミルメシアの原因

ミルメシアはどのような原因で生じるのでしょうか。

ミルメシアは「ウイルス性疣贅」の一種であり、皮膚のウイルス感染が原因である事が分かっています。

ウイルス性疣贅は皮膚にウイルスが侵入する事で疣贅(イボ)が生じる疾患になります。

疣贅を引き起こすウイルスは「ヒトパピローマウイルス(HPV)」と呼ばれ、HPVは現在100種類以上の型が発見されています。その中でもミルメシアを発症するウイルスはHPV-1(HPV1型)になります。

ではどのようにHPV-1がミルメシアを発症させるのでしょうか。

まず、HPVは皮膚に生じた小さな傷から表皮の中に侵入します。侵入するきっかけは様々ですが、小さい子だとプールなどを機に感染する事も多いようです。

その後、表皮に存在する角化細胞に感染し、角化細胞に入りこんだHPVは角化細胞内で増殖します。

細胞内で増殖したHPVは、次第に角化細胞の機能に異常を生じさせるようになります。角化細胞は本来、分裂して皮膚を守るバリアとしての役割を担うように分化(≒成長、発達)していきます。

HPVに感染した角化細胞は、この正常な分化に異常をきたします。すると表皮に過角化(表皮が肥厚してしまう事)、角化不全(表皮が正常に形成されない事)が生じるようになります。

このようにしてミルメシアが生じてしまうのです。

【ミルメシアが生じる原因】

・ヒトパピローマウイルス1型(HPV-1)が手掌・足底の表皮に感染する事で生じる




3.ミルメシアの症状

ミルメシアではどのような症状が認められるのでしょうか。

ミルメシアは他の疣贅とやや異なった症状を認めます。

通常、疣贅(イボ)はほとんど自覚症状はありません。そのため、美容上の理由で「早く取りたい」と希望される方はいますが、特に悪さをするものではないため、疣贅の程度によっては治療せずにそのまま様子を見る事もあります。

しかしミルメシアは他のイボと異なり、痛みを伴う事があります。

これはミルメシア自体が痛みを発するのではなく、他の疣贅よりも皮膚の奥にまで進行しやすいためだと考えられています。

具体的に言うと神経が走行している層である「真皮」にまで達する事もあるため、これによって痛みが生じるのです(真皮とは疣贅が発症する「表皮」の下にある層です)。

また、疣贅の形状としてはドーム状や中心部がややえぐれたような「噴火口状」の形をとる事が多く、これもミルメシアの特徴になります。

通常の疣贅は、ひっかいたりする事でウイルスが皮膚の他の部位にも広がり、多発する事があります。一方でミルメシアは多発しにくく、単発性が多いという特徴もあります。

この理由は不明ですが、ミルメシアは皮膚の奥に進行しやすい分、皮膚表面で広がっていきにくいのかもしれません。

【ミルメシアの症状】

・数mmのドーム状・噴火口状の疣贅(いわゆるイボ)を手掌・足裏に認める
・通常は単発性で、多発する事は少ない
・痛みを伴う事があり、足底に出来ると痛みで歩けない事もある




4.ミルメシアの治療法

ミルメシアは、どのように治療すれば良いのでしょうか。

ミルメシアはウイルス性疣贅(いわゆる「イボ」)の一種ですので、基本的な治療法はウイルス性疣贅に準じます。

ただしミルメシアは痛みを伴う事があるため、早期から積極的に治療をする事が望まれます。また皮膚の深くに進行しやすい特徴があるため、他の疣贅よりも治療に時間がかかる傾向にあります。

医療機関でよく用いられる治療法としては「液体窒素による凍結療法」があります。

これは液体窒素を用いてHPV感染細胞を凍結させる(凍らせる)治療法です。液体窒素は-196℃という極めて低温な液体であるため、これを病変部にスプレー噴射したり、綿球に液体窒素を付けて病変部にあてたりする事で感染細胞を凍結させ、壊死させる事が出来ます。

液体窒素による凍結療法は通常、1〜2週間間隔で行われます。数回で治る事もありますが、人によっては数カ月かかる事もあります(ミルメシアは数か月かかる事の方が多いです)。

液体窒素による凍結療法はイボを「凍らせて殺してしまう」という治療のため、液体窒素を当てる時に多少の痛みを伴う可能性があり、また疣贅周辺の皮膚にもダメージを与えて色素沈着などを引き起こしてしまうリスクがあります。

また内服薬としては、「ヨクイニン(薏苡仁)」という漢方薬が用いられる事があります。ヨクイニンはハトムギの種子から作られている漢方薬です。

ヨクイニンがどのようにミルメシアに効果を発揮するのかは明確には解明されていませんが、以前より経験的に「ヨクイニンがウイルス性疣贅に効果がある」という事が知られており、現在でもしばしば用いられます。

現段階の報告としては、ヨクイニンは免疫細胞(ウイルスや細菌などの異物が体内に侵入してきた時に、それを検知してやっつける細胞)を活性化させると考えられており、これがHPVをやっつける作用につながるのではないかと考えられています。

ただしヨクイニンによるミルメシア治療の効果は弱く、ヨクイニンだけではしっかりと治らないケースも少なくありません。

また液体窒素を行っても十分に改善しない場合は、外科的に手術で摘出してしまう事もあります。

【ミルメシアの治療法】

・痛みを生じる事があるため早期から積極的に治療する事が望ましい
・液体窒素による凍結療法で、疣贅を凍らせて殺してしまう治療法がある
・ヨクイニンの服用で改善する事もあるが、効果は弱い
・液体窒素で改善が乏しい場合は外科的に摘出する事もある