■ 乳児血管腫治療薬 ヘマンジオルシロップ小児用0.375%





乳児血管腫は出生時もしくは生後間もなく発症する血管内皮の増殖を特徴とする良性の血管性腫瘍です。
一般的に、乳児血管腫は、生後 1〜4 週に出現し、1 年以内に急速に大きくなっていきます。
しかし、その後 90 %以上は 5〜7 歳までに数年かけて徐々に消えてなくなります。

一方で、病変の大きさや発生部位によっては、うっ血性心不全、気道狭窄、眼瞼眼窩病変による視性刺激遮断弱視、斜視、乱視、耳下腺病変に伴う外耳道閉鎖、出血を伴う潰瘍形成等、重要臓器及び感覚器官に影響を及ぼすことがあります。
このような場合には、速やかな治療が必要とされています。

日本人における 乳児血管腫の発症率は 100人に1人くらいとされています。
また、乳児血管腫のうち、重要臓器及び感覚器官に影響を及ぼすような病変は 1000人に1人程度という報告があります。

「血管腫・血管奇形診療ガイドライン 2013」〈血管腫・血管奇形診療ガイドライン作成委員会 2013 年 3 月 第 1 版〉
http://www.dicomcast.com/va/_userdata/vascular%20anomalies%20practice%20guideline%202013.pdf


乳児血管腫に対する薬物療法としては、副腎皮質ステロイド、インターフェロンα、ビンクリスチン硫酸塩(オンコビン)等が試みられてきましたが、有効性のエビデンスは十分ではなく、副作用や、乳児の発育に対して影響を及ぼす懸念等もあって、日本では乳児血管腫を適応として承認されている医薬品はありませんでした。

Barrio VR, Drolet BA.Treatment of hemangiomas of infancy. Dermatol Ther 18: 151-159, 2005
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15953144

Barlow CF,et al.,Spastic diplegia as a complication of interferon Alfa-2a treatment of hemangiomas of infancy.J Pediatr 132: 527-530, 1998
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9544915

その他の治療方法としては、個々の患者の状況に応じてレーザー治療、凍結療法、手術等が行われていますが、乳児においては全身麻酔が必要となることが多く、治療後に血管腫が残存する場合もあり、課題が残されています。

そこで、ヘマンジオルシロップ小児用が、日本小児血液・がん学会から医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議に対して開発要望が提出されました。

ヘマンジオルシロップ小児用は、プロプラノロール塩酸塩を有効成分とするシロップ剤です。
プロプラノロール塩酸塩は、非選択的β-受容体遮断薬であり、日本においては、本態性高血圧等の効能・効果で承認されています(商品名:インデラル)。

プロプラノロール塩酸塩は、血管収縮作用、血管内皮増殖因子(VEGF)や塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)等の発現抑制を介した血管新生抑制作用等により、特に増殖期の 乳児血管腫に対して効果を示すことが期待されています。
国内外の公表文献では、 乳児血管腫に対してプロプラノロール塩酸塩が有効であったとの報告がなされています。
また、ガイドラインではプロプラノロール塩酸塩は治療選択肢の一つとされています。

ヘマンジオルシロップ小児用は、「乳児血管腫」を効能・効果として、2013 年 11 月 15 日付で希少疾病用医薬品に指定(指定番号(25 薬)第 319 号)されています。

希少疾病用医薬品指定品目一覧表
http://www.nibiohn.go.jp/nibio/part/promote/orphan_support/kisyoiyaku-hyo1.html



ヘマンジオルシロップ小児用の作用機序
乳児血管腫は、血管内皮細胞の腫瘍性増殖による良性の血管性腫瘍です。乳児血管腫病変の血管内皮細胞には β1-及び β2-アドレナリン受容体が発現しています。

Stiles J,et al.,Propranolol treatment of infantile hemangioma endothelial cells: A molecular analysis.Exp Ther Med 4: 594-604, 2012
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23170111

増殖期においては血管内皮細胞増殖や血管新生亢進等を介して、組織塊を形成します。

プロプラノロール塩酸塩は β-アドレナリン受容体の活性化を阻害することで、以下の作用により、増殖期の 乳児血管腫病変に対し効果を発揮すると考えられます。

•血管収縮作用による 乳児血管腫病変への血流の減少
•VEGF 及び 低酸素誘導因子HIF-1α の発現を減少させることによる血管内皮細胞増殖及び血管新生亢進の抑制
•乳児血管腫病変部の血管内皮細胞に対するアポトーシス誘導作用





必ず食事や哺乳をさせた後、投与しましょう
低血糖を起こすおそれがあるため、空腹時の投与を避け、授乳中・食事中又は直後に投与しましょう。
食事をしていない、又は嘔吐している場合は投与してはいけません。

なお、服用が行えない場合があったとしても、休薬によって 乳児血管腫が急激に増大するリスクはほぼ無いと考えられているので安心してください。



http://kusuri-yakugaku.com/pharmaceutical-field/pharmacolory/receptor/membrane-receptor/gpcr/%e3%82%a2%e3%83%89%e3%83%ac%e3%83%8a%e3%83%aa%e3%83%b3%e5%8f%97%e5%ae%b9%e4%bd%93/