■ 感染性腸炎にニューキノロンも時代遅れ!






2019/9/4

岡 秀昭(埼玉医科大学総合医療センター)









 前回、感染性腸炎の診断を安易に下さずに、もっと重篤な緊急疾患を念頭に診療を行うべきであると説明しました。それでもやはり感染性腸炎しか考えられない場合には、治療の基本は経口補液を中心とした水分、電解質管理になるのは言うまでもありません。

 では、抗菌薬の処方についてはどうでしょう?



 何でもかんでも、ニューキノロン系のレボフロキサシン(商品名クラビット他)を出していませんか。「いや、俺はホスミシンを出している」という先生もいらっしゃるかもしれません。細菌性を疑えば、抗菌薬を出す。ウイルス性なら出さないという優等生のような回答をされる方もいるでしょう。では、その場合、細菌性とウイルス性はどのように区別するのでしょうか? 少し詳しい先生ならば、腸炎の下痢を大腸型と小腸型に区別して、「小腸型はほとんどウイルス性で、大腸型では細菌性を考えて抗菌薬を処方する」と答えられるかもしれません。

 感染性腸炎を簡単に分類すると、小腸型は嘔気、嘔吐が強く、水様便を起こす一方で、大腸型は悪心、嘔吐は弱く、渋り腹や腹痛と時に血便を呈します。小腸型の原因微生物としてはノロウイルスが、大腸型ではサルモネラ菌、カンピロバクター、O157で有名な腸管出血性大腸菌などが代表的です。こう考えると、問診で小腸型と大腸型が鑑別でき、前者はウイルス性、後者が細菌性として抗菌薬の要否が明瞭化できそうです。しかしながら、コレラや旅行者下痢症を起こす腸管病原性大腸菌などの細菌の感染でも小腸型の下痢を訴えます。また、改めて紹介しますが、サルモネラ菌やO157は、細菌性でも抗菌薬を出さない方が良いかもしれないのです。

 そもそも感染性腸炎は大抵の場合、ウイルス性でも細菌性でも、水分と電解質の管理をしっかり行う対症療法で軽快するのです。故に感染性腸炎に対して抗菌薬の処方は、原則として不要であるという、基本スタンスが重要です。

 もちろん、原則はあくまで原則。例外的に抗菌薬を処方するべき患者さんもいます。米国感染症学会(IDSA)のガイドライン1)では、原則として感染性腸炎に抗菌薬をルーチンで処方しないとしつつ、(1)血圧低下、悪寒戦慄など菌血症が疑われる場合、(2)重度の下痢による脱水やショックがある場合、(3)免疫抑制状態の患者(HIV、ステロイド・免疫抑制薬の投与中)、(4)50歳以上、(5)人工血管・弁・人工関節がある場合――には投与を推奨しています。

 忙しい外来で行うことも考え合わせて、私も概ねこの考えに賛成です。ちなみに、IDSAのガイドラインでは、感染性腸炎患者に対するルーチンでの便培養も不要とされていますが、抗菌薬を処方する場合には、私は便培養を出しておくことをお勧めします。その際は、予想する菌名も必ず伝えましょう。血液培養と異なり、便培養の際は菌の種類により特殊な培地、培養が必要となります。予想する菌名の情報がないと検出感度が下がってしまうのです。

 では、抗菌薬は何を選べば良いのでしょうか。率直に申し上げて、感染性腸炎へのレボフロキサシンのようなキノロン系薬の処方も、尿路感染同様にもはや時代遅れです(関連記事:「膀胱炎治療にクラビット」は時代遅れ)。また、感染性腸炎によく処方されるホスホマイシン(ホスミシン他)も、実はその推奨の根拠は古い観察研究2)にしかないのです。そのため、私自身はマクロライド系抗菌薬を処方することが多いです。

 次回は、わが国で頻度の高い感染性腸炎の3つの原因微生物とその抗菌薬処方の必要性を含めた根拠について、私がマクロライド系抗菌薬を処方している理由を含めて説明します。


【参考文献】
1)Clin Infect Dis.2001;32:331-51.
2)Clin Nephrol. 1999;2:357-62.