■ 繰り返す溶連菌感染症と思いきや…






2019/8/28

松永展明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)









 今回は、溶連菌迅速検査にて繰り返し陽性になる場合について解説します。

 まず、「溶連菌咽頭炎を繰り返しやすい人」がいるのか、気になるところです。溶連菌自体は、集団生活や家庭内で伝播するため、繰り返し発症しやすいことは指摘されています。しかし、反復感染の個人(宿主)レベルでのリスク因子の報告は今のところありません。また、きちんと10日間内服したのに再燃したようにみえることがあります。その際は、同じ抗菌薬治療でいいのか? 耐性になることはないのか? とても大切なポイントです。

 実は、再燃した場合には、最初の感染時と同じ菌株による発症はまれであるといわれています1)。すなわち、再燃したようにみえても他の菌株に再感染しているというわけです。さらに、再感染時の原因菌株に対しても、最初の菌株と同様、ペニシリンが効果的であることも知られています。前回解説した通り、本邦でも溶連菌に対するペニシリン感受性は100%です(関連記事:溶連菌治療は本当にペニシリンでいいのか?)。つまり、繰り返し溶連菌感染症を生じた場合でも、同じペニシリンを用いた治療を行えばいいのです。



 ところで、小児の10〜30%は溶連菌を保菌していると報告されてます2)。さらに、冬から春にかけて、20%の学童が保菌し、半年以上保菌し続けるとの報告もあります3)。

 その間に発熱した場合、ウイルス感染症だとしても溶連菌を保菌しているため、溶連菌感染症の迅速検査が陽性になってしまいます。そのため、前述の通り、溶連菌感染症の診断に広く使用されているCenter criteria(発熱38℃以上、咳がない、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、白苔を伴う扁桃炎)を参考に、小児の溶連菌感染症では口蓋や後部咽頭領域のリンパ組織に所見が限局することや、扁桃や咽頭滲出物を認めないことが多い点を考慮しつつ、季節や周囲の流行も含めて迅速検査の適応を決めることが大切です。適応を十分に考慮せずに検査を実施すると擬陽性の症例が多くなり、不必要な抗菌薬治療が選択されかねないからです。

 ところで、これほど保菌率が高いとなると次に、保菌状態が人体に悪影響を及ぼすかが気になります。ヒトは細菌と一緒に存在することでメリットを得ています。これを共生といいます。正常細菌叢のバランスが崩れると、感染症のリスクが増えてくることもあります。つまり、多くの場合、保菌状態では、その細菌を排除する必要はありません。むしろ、バランスを取って上手に付き合っていく必要があるのです。

 溶連菌保菌状態のみではリウマチ熱の危険もないため、積極的に除菌する必要はありません。むしろ、溶連菌感染症を繰り返していると誤って判断し、必要以上の診療を行うことの方が問題という報告もあります。

 米国小児科学会では、保菌患者に対して抗菌薬を投与し除菌する事を勧めるのは、急性リウマチ熱または急性糸球体腎炎のアウトブレイクがある場合、集団で溶連菌性咽頭炎のアウトブレイクが認められる場合、急性リウマチ熱の家族歴がある場合、数週間にわたって家族内で症候性溶連菌性咽頭炎を繰り返している場合に限定されています4)。

 このようにウイルス感染症を否定した上で、溶連菌による咽頭炎を本当に繰り返している患児に対しては、どう対応すべきでしょうか。リウマチ熱の既往がある児では、抗菌薬の予防継続投与が推奨されていますが、それ以外では非推奨です。最終手段として扁桃摘出も選択肢となるかもしれませんが、リスクとベネフィットをよく比較すると、利益があると考えられるのは、本当に少数といわれていますので、慎重に対応したいところです5)。

 まとめると、繰り返す溶連菌感染症の治療のポイントは下記の通りになります。


・溶連菌感染症は反復することがあるが、異なる菌株の再感染がほとんどで、治療は同じペニシリン系を使用する。
・5〜10%の小児がA群β溶血性連鎖球菌を保菌している。特に集団生活児の保菌リスクは高い。そのため、溶連菌保菌状態の児の感冒に対し溶連菌感染症の治療を行うことを避けるべく、流行や咽頭所見を参考に、迅速検査の適応を見極めることが重要。
・保菌状態のみでは、合併症のリスクは基本的にない。