■ 雷雨喘息 |
喘息にもいろいろあります BMJ Christmas 2017から 雷雨喘息は呼吸器の救急患者を急増させる オーストラリアでは院外心停止例も増えていた 2018/1/10 大西 淳子=医学ジャーナリスト オーストラリアAmbulance VictoriaのEmily Andrew氏らは、2016年11月21日にオーストラリアのビクトリア州メルボルン市周辺で発生した雷雨喘息のアウトブレイクにより、午後6時から深夜までに予想の2.5倍の救急要請を受け、急性呼吸促迫患者や院外心停止例も増加していたと報告した。結果はBMJ誌電子版に2017年12月13日に掲載された。 雷雨喘息はまれな現象で、花粉のようなアレルゲンと、雷雨のような気象条件が重なると、その地域のハイリスクの人々に重症の喘息などを起こす。花粉は通常は大きな粒子だが、雷雨が花粉を膨張・破裂させると、アレルゲンが細粒化され、肺に吸い込まれて症状を引き起こすと考えられている。喘息患者だけでなく、喘息の病歴が無い患者にも起こり得るが、花粉症の経験がある患者は雷雨喘息のリスクが高いとされている。 これまでにもオーストラリアや英国、イタリア、カナダなどで雷雨喘息の発生が報告されていたが、今回の患者数は非常に多く、おおよそ1万3000人が医療機関を受診し、それらのうちの3000人超が呼吸器症状を訴えた。そこで著者らは、2015年1月1日から2016年12月31日までのビクトリア州全体をカバーしているAmbulance Victoriaの救急要請と搬送データを後ろ向きに調査し、雷雨喘息の影響を調査した。 2016年11月21日はその春一番の暑い日で、最高気温は35度になった。飛散していた雑草の花粉の数は非常に多かった(1立方メートル当たり102個)。メルボルンが雷雨になったのは午後5時から6時半の間で、気温は急激に低下し、相対湿度が上昇した。風向きは北から西に急変、PM10濃度も上昇した。夜になって風が弱まると、PM10値と飛散する花粉の量は低下した。翌日の花粉の量は少なく(1立方メートルあたり19個)、数日間そのレベルが持続した。 Ambulance Victoriaは、二次救命処置と、高度救急救命士(Intensive Care Ambulance Paramedics)による処置を行う。また、重症度が高くないと判断された緊急要請には、非救急搬送チームを紹介する、自分で救急部門を受診するよう助言する、一般開業医を紹介する、といったサービスも行っている。11月21日には、大幅に増加した需要に対応すべく、通常よりリソースを効率良く使用するための救急対応プランを実施した。 2016年11月21日には、2954人の患者からの救急要請電話があった。対照とした2年間に比べ、1014人多かった。午後6時から深夜0時までの間に1326件の電話があり、過去2年間の平均530件の2.5倍だった。500件を超える救急要請に対して救急車が出動できず、それらの患者にはパラメディクスが電話で対応した。 11月21日に、電話で呼吸器症状を訴えた患者は774人で、332人の患者がパラメディカルにより、喘息または息切れを含む急性呼吸窮迫と判断された。呼吸器症状による電話が337.2%(95%信頼区間313.0-362.5)、急性呼吸窮迫患者からの電話は432.3%(398.4から468.5)増加していたことを示した。同日の病院への救急搬送は17.3%(15.6-19.1)増加し、一般開業医からの急を要する紹介は47.1%(20.5-79.6)増加していた。 11月21日の午後6時から深夜0時までの間に17件の院外心停止が発生し、このうち9件(52.9%)は呼吸不全が原因と推定され、8件に喘息の病歴があった。3週前までの同じ月曜日には、15件の院外心停止が発生しているが、呼吸不全が原因とされた例はなく、喘息の病歴があった患者は3件だった。雷鳴喘息による心停止は82.2%(67.1-98.8)増加し、病院到着前の死亡も41.4%(28.7-55.5)増加していた。 サブグループ解析では、救急要請電話の増加は、喘息歴を有する患者で大きく、149.1%(137.1-161.8)の上昇をもたらしていた。気管支拡張薬を使用している患者からの救急電話も103.1%(95.9-110.5)上昇していた。一方で、喘息予防薬を使用している患者では、上昇は21.3%(14.2-28.8)に留まった。 これらの結果から著者らは、前例のない雷雨喘息のアウトブレイクは、救急医療サービスの需要を大きく高めていた。今後のアウトブレイクの影響を減らすためには、喘息予防薬の使用と早期予測警告システムが考えられると結論している。なお、この研究は外部からの支援を受けていない。 原題は「Stormy weather: a retrospective analysis of demand for emergency medical services during epidemic thunderstorm asthma」、概要はBMJ誌のウェブサイトで閲覧できる。 |