■ Fc受 容体 とは |
Fc受 容体 とは 抗体 の構造 は大 き く定常領 域抗原 の性質 に よって変化 す る可変領域 に分 けられ る. 定常領域 には抗原 結合性 を もたないFc部 分 があ り, また 可変領域 には抗原 と結 合 す るFab部 分が存在 す る. この うち, 定常領域 のFc部 分 を結 合す る細胞表 面受 容体 分子群, それがFc受 容体 で あ る. 抗体 は可変領域 で抗原 を認 識す る一 方で, その 定常領 域 でFc受 容 体 に よ り免 疫・ 炎症 細胞 な どの細胞 表面 に捕捉 され る. す なわ ち, 免疫 応答系 において, 異 物 (抗原) が存在 す る とい う情 報 は, 抗 体 を介 してFc受 容体発 現細胞 へ と伝達 され, 細胞 に免疫実効機能 を発揮 させ る方向 に導 く (図1). こ うしたFc受 容 体 を経 由す る異物 認識 の流れ は, 補体 系, T細 胞系 と並 んで獲得性 免疫 シス テ ム (acquired immunity) の根幹 を成 して お り, 現在 で はFc受 容体 欠損 マ ウスが様々 な免疫 不全 を 示 す事実 か らも, この点 は実証 されて いる. 図1■ 二Fc受容体 の主 な機 能 抗原の存在 は, 抗体 とFc受 容体 を介 して細胞系に伝達 される. Signal Transduction and Rolein Immune Responses for Inhibitory Fc Receptor *Masao ONO, Toshiyuki TAKAI, 東 北 大学 加 齢 医 学研 究所, 科 学 技術 振 興 事 業 団CREST, JST 154 化学と生物 Vol. 38, No. 3, 2000 ヒ トで はIgE, IgG, IgA (Ig: 免疫 グ ロブ リン) 抗体 ク ラス に対応 す る13種 以 上 のFc受 容体 遺 伝 子 が 同定 さ れてお り, それ らは主 として免疫・ 炎症細胞 に発現 して いる (図2). 構造 的 には, 免疫 グ ロブ リン様 構造 を とる もの, レクチ ン分 子 に属 す る もの, また サブユニ ッ ト会 合 の有 無 な ど, 多様 化 した分子群 であ る. また機能 的 に も, 抗体 クラスに対応 した認 識特異性 の分化 や結合親 和 性 の強弱 の他, Fc受 容体 か らの シ グナル で惹 起 され る 細胞応 答様 式 の点 で, 細胞活 性化, 細 胞 の抑制, エ ン ド サ イ トー シスな どの多様化 が み られて いる. こうしたFc受 容体 機能 の多様 化 は, サ ブユ ニ ッ トを 含 め た細 胞 内領 域 の属性 に よる. た とえ ば, 免 疫 活性 化物質 の分泌 な どを惹起 す るFc受 容体 は, ITAM (immunoreceptor tyrosine-based activation motif) と称 される活 性化 ア ミノ酸配列 を細胞 内領 域 に もつ. ITAM は, CD3分 子群 やB細 胞 受容体複 合体 な ど, 免疫系細胞 に発現 す る活性型 受容体分 子 に広 く認 め られ るア ミノ酸 モチー フで, src型 チ ロシ ンキナーゼ やsykな どの チ ロ シンキナーゼ と結 合 して細胞 内 シグナル を起動 す る. 一 方, ITIM (immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif) と称 され る抑制性 ア ミノ酸 配列 を もつFc受 容体 もあ る. これ は近年, ITAMか らの活 性化 シグナル のブ レー キ役 を果 た して いる こ とが明 らか にされた. し たが って, Fc受 容体群 は活性化 と抑制 とい う相反 す る作 用 を免疫・炎症 系 に及 ぼ しなが ら, この系 の合 理性 (異物 の排除 と恒常 性) に寄与 す る こ とにな る. 活性 と抑 制 の バ ランス機構 に, Fc受 容体 の生 理学 の焦 点 の一 つ が あ る. さて本稿 で は, Fc受 容体機 能 の一 つ で あ る抑制 作 用 解析 の現状 を紹介 して, Fc受 容体 や 抑制 系 への興 味 を 喚起 した い と考 えてい る. 特 に, Fc受 容体 群の 中で は, 唯一 抑制機能 を果 た すFcγRIIbに 関 して, その抑制性 シグナル の実体 を中心 に解説 す る. FcγRIIbの 特 徴 FcγRIIbの 特徴 は, 細胞 内領域 にITIMが 存在 す る とい う構造面 と, 免疫・ 炎症抑制 作用 を発揮 す る とい う 機能 面 に ある. ヒ トで もマ ウスで も. FcγRIIB遺 伝子 か ら, 最長 のb1お よび細胞 内領域 の1エ ク ソン分 を欠 く b2の2種 のア イ ソ フォー ム が主 に作 られ る. 2種 とも ITIMを もち, 抑制 機能 を発揮 す る. 現在 で は, MHC 図2■ ヒ トFc受 容 体 の 多 様 性 γはFcεRIγサブユニット, βはFcεRIβサブユニット. GPI: glycosyl phosphatidylinositol 化学 と生物 Vol. 38, No. 3, 2000 155 ク ラ スI分 子 を認 識 してNK細 胞 の 自己 傷 害 活 性 の 抑制 に関係 す るKIR (killer cell-immunoglobulin like receptor) 群 や, CD22やCTLA4な ど, 欠損 マウス の解 析 で 明 らか に された抑 制 性膜 表 面 タ ンパ ク質 の 細胞 内 領 域 に も共 通 にITIMが 認 め られ て い る. ITIMと 抑 制作 用の関係 は後述 す る. また, ITIMに 含 まれ る形 で dileucine motif(LL)も み られ る. これ は抑制 機能 に は 関 係 ないが, FcγRIIbの 抗 原抗 体複 合体 のエ ン ドサ イ トーシス機能に必要な配列であることが示唆されている(1, 2 ). 一 方, FcγRIIbの 細 胞外領 域 には特徴 は認 め られ な い. 2つ のIg様 ドメイ ンか ら成 り, IgGのFcに 対 して は低親 和性 の結合特性 を与 えてい る. 活性 型受容 体で あ るFcγRIIIの 細 胞外 と一次 構造 が 酷似 (相 同性89%) し てお り, 各IgGサ ブク ラス に対 す る結合 特性 もFcγRIII と同 じ とされ る. す なわ ち, リガ ン ドを共有 しなが ら相 反 す る機能 を もったFc受 容 体セ ッ トが, ヒ トに もマ ウ スに も存在 す るこ とにな る. FcγRIIb抑 制 の合理性 と重要性 FcγRIIbは, 成 熟T細 胞, NK細 胞以 外 の血 球 系細 胞 に広 く発現 す る. IgG-Fcと の結合 は低親和 性で あ る. これ は, FcγRIIbは モ ノマー のIgG分 子 は結合せ ず, ポ リメ リックなIgG-Fc, す なわ ち抗 原抗 体複 合体 や細 胞膜 上 に固相 化 され たIgGに 対 しての み結 合活 性 を示 す こ とを意味 す る. 高親和 性Fc受 容 体 で あ るFcγRI やFcεRIが, IgGやIgEを モノマー の状 態で恒 常的 に 細胞膜 表面 に保 持 しなが ら機能 す る場合 とは リガ ン ドの 状態 が異 なる. 1980年 代 よ り, この ような性 質 を示 すFc受 容体 がB 細胞 上 に存 在 し, それ がB細 胞抗 原受 容体(BCR)を 介 した活 性化 シ グナル を強 く抑 制 す る こ とが培 養 系の 実 験 で示 されていた(3). そ こで は, B細 胞 をBCRに 対 す る IgG抗 体 で架橋 刺激 して増殖誘 導 をか け る実験 に際 し, 用 い るIgGク ラスの抗体 をFc部 分 を除 いたF(ab')2に する とよ く誘 導が かか るが, Fc部 分 を もつ intact な抗 体 で はB細 胞 が効 率 よ く活性 化 しない現 象 が観 察 され ていた. その後, IgG-Fcに 対 す るB細 胞 上 のFc受 容 体 は, 唯一FcγRIIbで ある こ とが明 らか にされ, FcγR IIbがBCRを 介 したB細 胞 活性化 シグナル を抑 制 して 図3■FcγRIIbと 抗原 受 容体 の凝 集様 式 と抑制 作用 A: 抗BCR抗 体 を用 いた実験 的モー ド, B: 免疫応答の過程にお いて推定 され る, 抗原抗 体複合体 に よるFcγRIIbを 介 したフ ィ ー ドバ ック制御. PTK: protein tyrosine kinase 用語解説 FcγRIIB(b): 低親和性 のIgGのFc部 分 を認識 す る Fc受 容体遺伝子(翻 訳産物)の 一 つ. ヒ トの も の は染 色 体1q23領 域 に 存 在 し, FcεRIα, FcεRIγ, FcγRIIA, FcγRIIC, FcγRIIIA, FcγRIIIBに 隣 接 す る. マ ウス の もの はヒ トの相 同領域 に当た る第1染 色 体92.3cM領 域 に存 在 し,FcεRIα, FcεRIγ, FcγRIII が 隣 接 す る.IgGサ ブ ク ラ ス に よ ってFcγRIIbと の親 和 性 は異 な り, ヒ トで はIgG3≫IgG1>IgG4>IgG2の 順 で, マ ウスで はIgG1>IgG2b>IgG2a>>>IgG3順 で強 く結合 す る. ITAM: Immunoreceptor tyrosine-based activation motif の 略. CD3やB細 胞 抗 原 受 容 体 サ ブユ ニ ッ トな どの免 疫 系活性 型 受容 体, また は その サ ブ ユニ ッ トの細胞 内領 域 に共通 して見 い だ され るア ミノ酸 モチ ー フ配 列. その配 列 は, (D/E)xxYxx(L/I)x6-8Yxx (L/I)(xは 任 意 のア ミノ酸). ITAMは, 活性 化 サー ク 型 チ ロ シ ンキ ナー ゼ に よって リン酸化 され た 後, sykや ZAP70な どの2個 のSH2領 域 を もった 細 胞 質 チ ロ シ ン キナー ゼ と結合 す る. 活 性型 受容 体 を介 す る シグナ ル伝 達 の起 点 とな る. ITIM : Immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif の 略. FcγRIIbを は じ め, NK細 胞 抑 制 性 受容体 群, CD22, CTLA4な どの抑制 性 受容体 に共通 して見 い だ され るア ミノ酸 モ チー フ配 列. その配 列 は, (V/I)xYxx(L/I) (xは 任 意の ア ミノ酸). ITIMは, 活 性 化src型 チ ロ シ ン キ ナー ゼ に よって リン酸 化 され た 後, SHIPやSHP-1な どのSH2領 域 を もった細 胞質 脱 リ ン酸化 酵素 と結 合 す る. 抑制 性 受容体 を介す るシ グナ ル 伝 達 の起点 とな る. 156 化学と生物 Vol. 38, No. 3, 2000 い る とす る仮 説 が 導 か れ た. さ ら に, FcγRIIbに 対 す る抗 体 を利 用 して, BCRとFcγRIIbを 別 々 に凝 集 す る実験 も行 なわ れ たが, この 系 で はB細 胞 活性 化 の 抑制 は ま った く起 こ らなか った. した が って, BCRと FcγRIIbがB細 胞 上 の一 局面 に凝 集す る ことが, 抑 制 機能 の発 現 に必 要で ある ことが示 唆 され た (図3-A). こ の実験 的モー ドを生体 内反 応系 に当て はめ る と, IgGの 抗原抗体 複合体 が形成 された とき (抗体量充 分時) に, cognate B細 胞 (そ の抗 原 特異 的 な抗体 を産 生 す るB 細 胞) にお いてFcγRIIb抑 制 のス イ ッチがオ ンにな る とい う ことで あろ う (図3-B). FcγRIIb欠 損 マ ウスで は, どの種 の抗原刺 激 に対 して も抗体 産生応 答 は高 く推 移する結果が得られていることからも(4, 5), FcγRIIb は, B細 胞の抗体産 生系 をフィー ドバ ック的 に制御 す る 役割 を果た してい る と考 えられ てい る. さ らに, FcγRIIb欠 損 マ ウス の解 析 か ら, FcγRIIb 抑 制 はB細 胞応 答 に限 らない ことも示 されて いる. マス ト細胞 やマ クロフ ァー ジが, 抗原抗体 複合体 で活性化 す る際にもFcγRIIb抑制が効いている (4〜7). 抗原抗体 複 合体が刺 激 となる免疫・ 炎症 反応 は, アレルギーや 自己 免疫 性疾 患 な どの病 態 の中に, あるい は多 くの実験系 に お いて再現 され る現象 で あ る. FcγRIIbは, マ ス ト細 胞 や マク ロフ ァー ジの場合, 活性 型のFcγRIIIあ るいは FcγRIIaと 一緒 に発 現 して い る. これ らのFc受 容 体 は, IgG-Fcに 対 す る リガ ン ド特 異性 の点 で はFcγRIIb と同 じで あ るため, 抗原 抗体 複 合体 の刺 激 は活性 型Fc 受容体 とと もにFcγRIIbも 凝 集 す る ことにな る. した が って, これ まで に観察 されて きた抗 原抗体複 合体刺激 によ る反応 は, FcγRIIb抑 制 の分 を差 し引 いた程 度 で みて きた可 能性 が あ る. これ は, FcγRIIb欠 損 マ ウス で は, 抗原 抗体複 合体 に よる病態 に顕 著 な亢進 が み られ ることからも支持される(6, 7). FcγRIIb抑制は, 抗 体 が 関与す る免疫・ 炎症 反応広範 に影響 を及 ぼ してい る と結 論 され てい る. FcγRIIb抑 制の メカ ニズム それ で は, FcγRIIb抑 制 の実体 とはい か な る もの で あ ろうか. ここ まで, ITIMと 抑制 作用 の関係の伏 線 を 敷 いて きた. その 関係 を明 らか にす るた め, FcγRIIb 図4■FcγRIIbの 抑 制 機 序 (A) と抑 制 シ グナ ル 伝 達 分 子 の 機 能 領 域 (B) チ ロ シ ンキ ナ ー ゼlynは, 活 性 化 シ グナ ル と同 時 にITIMを リ ン酸 化 す る こ とで 抑 制 シ グ ナ ル を起 動 す る (第 一 ス テ ッ プ(1)). リ ン酸 化 ITIMはSHIPを 動員 して, 酵 素活 性 を その場 で発 揮 させ る (第二 ス テ ップ(2)). SHIPの 酵 素 活性 に よ り細 胞膜 のPIP3量 が 低 下 し, Btk の 活 性 化 が抑 え られ る (第 三 ス テ ップ(3)). ア ミノ は一 字 略 記 で 示 す. PIP3: phosphatidylinositol(3, 4, 5)trisphosphates, PIP2: phosphatidylinositol(3, 4)diphosphates, BCR: B cell-antigen receptor, PTK: protein tyrosine kinase, pY: phospho-tyrosine, SHIP: SH2-containing inositol phosphatase, Btk: Bruton's tyrosine kinase, PTB: phosphotyrosine binding, SH2/3: src-homology 2/3 化学 と生物 Vol. 38, No. 3, 2000 157 が どの よ うな伝達分 子 と標的分 子 を介在 させ なが ら細胞 活性 化 シグナル を遮 断す るのか を, 時 間軸 に沿 って解説 す る (図4-A). 第 一 ステ ップ: IgGの 抗原抗 体複合体 は, B細 胞 に 対 して はBCRとFcγRIIb, マ ス ト細 胞, 顆 粒球, マ ク ロ ファー ジな どの細胞 に対 して は, FcγRIIIとFcγRIIb の共凝 集 をひ き起 こす. す な わ ち, どの場 合 で も活 性 型 受容体 とFcγRIIbが 細 胞膜 表面 上 で隣 接 した位 置関 係 を とる. そ うい った局 面 で は, 活性 型 受 容 体 の凝 集 によ りlynやsykな どの非 受容 体 型 チ ロシ ン キナ ー ゼ 群 が活性化 し, 次々 に基質 を リン酸化 して い く一方で, FcγRIIbのITIM上 のチ ロ シン も基質 として リン酸化 す る. このITIMの チ ロシン リン酸化 が, 抑制機 能 に必 要で ある ことは, ITIMの チ ロシ ンをフェニル アラニ ン に変異 させ る と, FcγRIIbの 抑 制機 能 を完 全 に取 り除 けることから支持される(8, 9). また, ITIM上のチロ シ ン を リン酸化 す る酵 素 はlynキ ナー ゼで あ り, lyn欠 損 マ ウス 由来 のB細 胞 や マス ト細胞 で は, FcγRIIbを 介 し た抑制現 象の減弱 や, ITIMの チロ シン リン酸化 が誘導 されない実験結果により支持される(10, 11). lynは活性 型 受容体 の シグナル伝達 初期 に活 性化 され るキナーゼ で も あ り, FcγRIIbが 活 性化 受容体 の近 傍 に位 置 す る こ と で, 抑制 シグナル が起 動す る仕 組 みにな ってい る. 第二 ス テ ップ: FcγRIIbのITIMの リン酸化 にひ き続 き, イ ノシ トール脱 リン酸 化 酵素 (SH2-containing inositol 5'-phosphatase: SHIP) がそ こに結合 す る(12). この 結合 は, ITIMの チ ロシ ン リン酸化 依 存 性 にSHIPのSH2領 域 を 介 して 行 な わ れ る. SHIPと FcγRIIbの 結 合 は, 免疫 沈降法 で簡 単 にみ る こ とはで きるが, SHIPが 抑制 の シグナル伝達 に必要 で あ る こと は, SHIP欠 損B細 胞 においてFcγRIIb抑 制 が 消失 す るこ とに よ り初 めて示 され た(13). またSHIPは, イ ノシ トー ル4-リ ン酸 や膜 成分 の イ ノ シ トー ル リン脂 質 を基 質 に した脱 リン酸 化 酵素 で あ る と同時 に, SH3領 域 や PTB (phosphotyrosine binding) 領域 を介 しての分子 架 橋 の 機能 も兼 ね備 え て い る (図4-B)(14, 15). した が っ て, 多様 なSHIP特 性 の中で, 何 が抑制 シグナル伝達 に 必 要かが 問題 となるが, この点 に関 して は, SHIPの 酵 素活 性欠損 の ミュータ ン ト分子 な どを用 いた実験 か ら, 酵 素活性 こそがFcγRIIb抑 制 に必 要 であ る こ とが示 さ れ て い る(13). FcγRIIbの 抑 制 シ グ ナ ル は, SHIPが FcγRIIbを 足場 に細 胞膜 直下 に移 動 して きて, イ ノシ トール脱 リン酸化酵素活 性 を発揮 して伝達 され る とい う 機序 にま とめ るこ とがで きる. 最 近 の知 見 として興 味深 い こ とは, SHIPのSH2領 域 は, FcγRIIbの リン酸化ITIMだ けで は な く, Shc 分子 の317番 目の リン酸化 チ ロシ ン(pY317)も 結合 ター ゲ ッ トにす る こ とで あ る(16). さ らに, SHIP-SH2領 域 が リン酸化ITIMとShc-pY317に 結合す る速 度 は同 じ で あ るが, 解 離 す る速 度 はShcのpY317の ほ うが10 倍遅 く, したが って, SHIP-Shc結 合 の ほ うがSHIPFcγRIIb結 合 よ り安 定で あ る こ とが示 され て い る. す なわち, SHIP-SH2領 域 を介 した結 合 には競合 が あ り, それ に よるFcγRIIb抑 制 の活性 を減 じる機序 が推 定 さ れ る点 で興味深 い. なお, SHIP-Shc2量 体 の生理 的機 能 は不 明で あ る. 第 三 ステ ップ: FcγRIIbを 足 場 に したSHIP活 性 が, 抑 制 シグナル として次 に何 に伝 達 され るのか を, 最 近の2つのグループからの報告をもとに説明する(17, 18). B細 胞 のBCRか らの刺 激 は, PI3キ ナー ゼ活性 上 昇 に よるPtd Ins(3, 4, 5)P3の 増加 を誘 導す る. その結果, Ptd Ins(3, 4, 5)P3とBtk (Bruton's tyrosinekinase) の pleckstrin homology(PH)領 域 の結 合 に よ り, Btk キナーゼ活性 が細胞膜 へ と動員 され る. この過程 のB細 胞活性 化 に対す る重要 性 は, PI3Kの イ ン ヒビターで あ る wortmannin のカル シウム シグナル抑制効果 や, Btk にPH領 域の変異 (X-linked agammaglobulinemia: XLA) を もつB細 胞 やBtk欠 損B細 胞 株 にお いて, 細 胞 内カル シウム応答 が惹 起 されない事実 か らも支持 され る. 彼 らは, Ptd Ins(3, 4, 5)P3に 依 存せ ずに, 恒常的 に 活 性型 とな るBtk (membrane-associated Btk) を強制 発現 したB細 胞 にお いて, FcγRIIbの 抑制 効果 は消失 す るこ とを見 い だ して い る. この結 果 は, FcγRIIb抑 制 がBtk活 性 の抑 制 に依存 す る ことを意味す る. す なわ ち, FcγRIIbを 足場 に したSHIPの 酵素活性 がPtd Ins (3, 4, 5)P3を 減少 させ, その結 果, Btkの 活 性化 を抑制 |