■ 子どものピロリ菌除菌をめぐり議論が二分





森本毅郎 スタンバイ!





いま、医療の世界で意見が真っ二つに分かれているのが、「子どものピロリ菌」をめぐる問題。「ピロリ菌」は、「胃がん」の原因となっているのですが、子どものうちから、このピロリ菌の検査や除菌をした方がいいという意見と、検査や除菌をしない方がいいという意見があるのです。

そこで、12月3日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時〜)で、双方の言い分や、現状についてお話しします。
★胃がんとピロリ菌との関係
胃がんは、症状が進行すると、症状が出てくる病気です。胃が動かなくなったり、痛くなったり、もたれたりします。その中でも最も特養的なのは、食事が食べられなくなって体重が減少することです。

そんな胃がんの原因ですが、胃がんの人を調べると、99%が「ヘリコバクター・ピロリ」というピロリ菌に感染しています。このピロリ菌が胃がんの原因なのです。そんなピロリ菌は、胃の粘膜に住みつく細菌で、それが感染していると、胃に慢性的に炎症が起こる「ピロリ菌感染胃炎」を起こします。

ピロリ菌は免疫の働きが不十分な5歳くらいまでに感染すると、胃の中に住みついてしまいます。しかし、それ以降は、ピロリ菌が口から入っても、感染することはない、とされています。もちろん、ピロリ菌感染者がすべて胃がんを発症するわけではありません。ピロリ菌感染者の男性では、7人に1人、女性では14人に1人と考えられています。
★胃がんは予防ができる
予防にはまず、ピロリ菌の検査を受けてピロリ菌に感染しているか否かをチェックします。この検査は内科や消化器内科で受けることができます。尿素呼気試験という息を検査する方法や、尿検査、そして内視鏡でしっかり診る検査などがあります。そこでピロリ菌の感染が確認されると、胃がんの予防のために、ピロリ菌の除菌をします。ピロリ菌の除菌治療は、2回まで健康保険で受けることができます。

1次除菌では、3種類の薬を7日間服用します。これで除菌できなかった場合は薬の種類を変えて2次除菌を行います。この除菌率は極めて高く、1次除菌では90%、2次除菌では99%除菌できます。

こうした中で、現在問題になっているのが、ピロリ菌の検査や除菌をいつ行うかということです。というのも、最近、中学生にピロリ菌検査を実施する自治体がでているんです。これは、内視鏡ではなく、尿検査などが多いのですが、その検査や除菌について、中学生のうちに行った方が良いという意見と、大人になってからの方がいい、という意見と、真っ二つに分かれているのです。
★反対派の意見
1つ目は「40歳までであれば大丈夫」という意見です。現在の胃がんリスク健診の対象年齢は40歳以上です。そうした中で、先月8日、日本小児栄養消化器肝臓学会が、症状のない15歳以下の子どもに胃がん予防のためのヘリコバクター・ピロリ菌の検査や除菌をしないように提案する指針を公表しました。指針では、ピロリ菌の除菌は、成人では胃がんのリスクを低下させるが、「小児ではリスクを低下させる科学的根拠はない」と指摘しています。「小児期に除菌を始める妥当性はない」、という意見があります。

2つ目が、「小児は保険適用ではない」という意見です。除菌治療は、小児に対しては保険適用がありません。
このため、反対派は、保険適用がないということは、安全性が認められていないということで、現段階では重篤な副作用の報告はないものの、今後もそうとは限らない、という意見です。

このほか、反対派の日本小児栄養消化器肝臓学会は症状がない子どもへの検査と除菌は、欧米の指針で推奨されていないことなどから「中学生を含む小児に一律に検査と除菌を行うことは推奨できない」という指針が示されました。
★賛成派の意見
1つ目は「40歳まででは遅い」という意見です。胃がんリスク健診の対象年齢は40歳以上で、検査してピロリ菌がいれば除菌します。一方で、ピロリ菌感染は5歳までに起こり、5歳までに感染して、そこから胃炎が持続してがんをつくるので、40歳以上の人のピロリ菌を除菌しても、胃がんの可能性は減るものの完全にゼロにはならない、ということなのです。

また、現在、日本でのピロリ菌感染は、親からの経口感染がほとんどです。しかし、除菌の対象年齢が40歳以上なので、対象者にすでに子供がいる場合、それまでに感染している可能性があるということです。40歳よりも若い段階で除菌ができれば、子供への経口感染も防げるし、除菌後胃がんの可能性も減らすことができる、という意見です。

2つ目の「保険適用」についてですが、賛成派からは「保険適用ではないものの、一部の自治体は中学生の検査や除菌の補助を行っていて、広がっている」という意見があります。実際に、佐賀県では県全体で中学生の検査や除菌を補助していたり、岡山県や大阪府、北海道などの自治体でも行われています。

また中学生のうちに受けさせるべきだという意見もあります。高校生になった場合、高校は親元を離れたり、市町村を越えて通学したり、そもそも高校に入らなかったりということがあり、義務教育のうちに、という意見です。
★胃がんの予防効果は加齢とともに低下する
一方で、ピロリ菌の除菌治療を受けた年齢が高くなるほど、胃がんの発症を予防できる効果は低下していくことはわかっています。20代〜30代までに除菌すれば男女ともほぼ100%胃がんが抑制でき、40代で90%、50代で80%、60代から70代でも30〜60%の抑制効果があります。一度除菌すれば再感染することはほぼありません。

若い頃にきちんと除菌すれば、胃がんリスクはなくなります。そのためには、中学2年の義務教育のときに、ピロリ菌のいる人全員に除菌するのが一番でしょう。

高校生では、先ほどの市町村を越えて通学したり、という問題もあるので、全員検査は難しい。中学3年では、受験があるので、万が一陽性となった場合、治療と受験が重なったりすると、メンタル的にいやな思いをさせてしまう可能性もあります。そして20代で働き出すと「忙しい」を理由に除菌治療を受けないのではないでしょうか。そういった意味でも中学2年で、胃がんを完璧に予防することがいいのでは無いかと思います。