■ ChAdOx1 nCov-19

・ Oxford University(英国)/Astra Zeneca(英国)「ChAdOx1 nCov-19」
 ラッサ熱や中東呼吸器症候群(MERS)、インフルエンザのワクチンにも使われるアデノウイルウイルス・ベクター(ChAdOx1)を利用。アデノウイルウイルスはチンパンジーの風邪のウイルス。
 CanSino BiologicsやJohnson & Johnsonは、ヒトのアデノウイルウイルスをベクターとして利用するが、ヒトのアデノウイルウイルス・ベクターを使用してワクチン開発を進めているが、ヒトのアデノウイルウイルスの抗体を持っている人に対してはワクチン接種の効果が下がる可能性が指摘されている。こうした欠点を除くために、「ChAdOx1 nCov-19」ではチンパンジー由来のアデノウイルウイルスを無害化してベクターととして使用している。
 製造・販売はAstra Zenec社(英国・スエーデン)。MERSワクチンやインフルエンザ・ワクチンの開発で実績。
 イギリスでは、1万人の治験者を対象にフェーズII / III試験、ブラジルでは2000人の治験者を対象にフェーズIII試験を開始している。
 英政府は6550万ポンド(約86億5000万円)の開発資金を提供し、1億本のワクチンを確保した。その内、9月までに、3000万本のワクチンの供給を受け、緊急使用として医療従事者への接種を開始する計画である。
 英政府は、Imperial College Londonが取り組んでいるワクチン開発にも支援して、両大学に対して合計1億3100万ポンド(約173億円)を拠出することを決めている。
 一方、米政府機関のBARDAは、Oxford University/Astra Zenecaに対して、最大12億ドル(約1284億円)の開発資金を提供、見返りに3億本のワクチンの供給を受ける。 トランプ政権の推し進めるワープスピード作戦の対象候補ワクチンとしている。
 欧州各国に対しては、6月13日、ドイツ、フランス、イタリア、オランダが設立した「欧州包括ワクチン同盟(IVA)」と、「ChAdOx1 nCov-19」を最大4億回分を供給することに合意した。
 この合意で、IVAの4国はワクチンの供給を確保し、さらにワクチン同盟に参加を希望する他のEU諸国も負担金を支払えば加入を認め、ワクチン供給が受けられるようにしするとしている。EU各国は、「欧州包括ワクチン同盟(IVA)」を通じて、「ChAdOx1 nCov-19」へのアクセスが可能になった。
 AstraZenecaの最高経営責任者、パスカルソリオ氏は、「この合意により、開発が成功すれば、数億人のヨーロッパ人がこのワクチンを利用できるようになる。欧州の生産開始を開始して、サプライチェーンを整備して、このワクチンが幅広く迅速に入手できるようにしたい。ドイツ、フランス、イタリア、オランダ政府の関与と迅速な対応に感謝する」と述べた。 ワクチン製造はアストラゼネカ社が担当するが、同社では今年末までには10億本の製造設備を整えるとしている。
 さらにOxford University/Astra Zenecaは、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)やGaviワクチンアライアンスと提携し、3億本を年末までに供給を開始するとしている。Gaviは世界の低・中所得国に供給する。
 アストラゼネカ社はインドのワクチン大手Serum Institute of India (SII) とライセンス契約を締結、インドで10億本を製造して。うち4億回分は年末までに供給するとしている。10億本のうち、一定量(発表なし)はインド向けで、残りはGAVI によって他の発展途上国に配られる。アストラゼネカ社では、パンデミックが進行中の間は、「利益はゼロ」で供給を実施するとしている。
 自社での生産量とインドでのライセンス生産量を合わせると、ワクチンの生産能力は年間20億本に上る。

■ ワクチンの決め手は、「チンパンジー・アデノウイルス・オックスフォード1(ChAdOx1、チャドックス1)」
 オックスフォード大学には、1796年に世界で初めてワクチンを開発したエドワード・ジェンナーにちなんだジェンナー研究所があり、世界有数の専門家が集まっている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、可能な限り短時間で、ワクチン開発を行うためにはどうするかが焦点だった。
 ジェンナー研究所の計画の中心には、「プラグ・アンド・プレイ(起動後すぐに作動すること、元はコンピュータ用語)」と呼ばれる、画期的なワクチン開発の仕組みを整えていた。素早く柔軟で、未知の病気に対応するには格好の手法である。
 幼少期に受ける予防接種で使われる従来のワクチンは、弱体化や不活化したウイルスの一部をヒトの体内に投与する。しかし、こうしたワクチンの開発に時間がかかる。
 オックスフォード大の研究者はこれに代わるものとして、「チンパンジー・アデノウイルス・オックスフォード1(ChAdOx1、チャドックス1)」を作り出した。
 チンパンジーが感染する普通の風邪のウイルスを操作し、あらゆる感染症に対応できるワクチンの建材となるようにした。
 COVID-19以前には、インフルエンザやジカ熱、前立腺がん、チクングニア熱などの治療に、「チャドックス1」をもとにしたワクチンが開発され、計330人が投与されたという実績がる。
 チンパンジーから採取した風邪ウイルスは遺伝子操作が行われているため、人間が感染することはない。この「チャドックス1」に、治療したい病気の遺伝子コードを組み込むことでワクチンを作り上げある。対象の病原体が体内に入れば、免疫系が反応してヒトに感染させようとるウイルスを攻撃する仕組みである。免疫反応を引き起こす物質は「抗原」と呼ばれる
 「チャドックス1」は言わば、ミクロの世界の、優秀な郵便配達人のようなものだ。科学者は治療したい病気によって、「チャドックス1」に託す荷物、つまり抗原を変えるだけ済む。
 ジェンナー研究所のギルバート教授は、「(抗原を)入れたら、あとはおまかせ」と述べている。
(出典 BBC NEWS 「英オックスフォード大の新型ウイルスワクチン、どうやってこんなに速くできたのか」 2020年11月28日