■ 起立性調節障害【私の治療】


平田陽一郎 (北里大学医学部小児科学准教授)

日本医事新報・私の治療2020年10月2日 (金)配信 小児科疾患精神科疾患神経内科疾患
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 起立性調節障害(orthostatic dysregulation:OD)は、思春期に起こりやすい自律神経機能不全であり、起立に伴う循環動態の変化に対する生体の調節機構が破綻することによって生じる、めまい、立ちくらみ、動悸、腹痛、頭痛などを症状とする疾患である。睡眠リズムや体温調節の異常を伴うことも多く、心理社会的ストレスによって影響を受けることから、心身医学的なアプローチも必要となる。

診断のポイント
 立ちくらみ、入浴時の気分不快、朝起きられず午前中の調子が悪い、といった症状から診断する。類似の症状を呈する疾患を除外するとともに、起立試験、head-up tilt試験などを行い診断するが、詳細はガイドライン1)を参照されたい。

私の治療方針・処方の組み立て方
 重症度と心理社会的関与の有無から、治療的対応の組み合わせを決定する1)。非薬物療法がきわめて重要であり、薬物療法に優先して行う。治療開始後は、1〜2週間ごとに通院とする。薬物療法の効果判定は2週間をめどに行い、無効の場合には変更する。

【病態の説明】

 「朝起きられなくて、午後になると元気なのに、学校に行けない」「学校に行こうとすると腹痛や下痢を起こして行けない」「学校に行くことができても、保健室で寝ている」など、一見「怠け者」と誤解され、本人がつらい思いをしていることが多い。「これは、自律神経の調節がうまくいかない病気である」ことを、本人と保護者に説明する。「ちょっと長くなるけど、必ず治るから」とサポートしていくことが重要である。

【日常生活指導】

 早寝・早起きを心がけるが、無理強いはしない。朝になったら太陽の光を浴びるように指導する。起床・起立は30秒以上かけてゆっくり行う。暑い場所は末梢血管が広がるため、症状が悪化する可能性があり、入浴はその典型である。低血圧の傾向があるため、塩分・水分を十分にとるよう指導する。学校に行けない場合でも、可能なら午前中に散歩や軽い運動を行うように指導する。下肢からの静脈灌流を促進する目的で、弾性ストッキングを着用してもよい。

治療の実際
 上記の日常生活の指導を行っても改善が得られない場合には、薬物療法を行う。

一手目 :メトリジン2mg錠(ミドドリン)1回1錠1日2回 (起床時・夕食後)

二手目 :〈一手目を2週間継続しても改善が得られない場合、処方変更〉メトリジン2mg錠(ミドドリン)起床時2錠、夕食後1錠に増量

三手目 :〈二手目を2週間継続しても改善が得られない場合、処方変更〉エホチール5mg錠(エチレフリン)1回1錠1日3回(毎食後)

四手目 :〈処方変更(特に体位性頻脈症候群に対して)〉インデラル10mg錠(プロプラノロール)1回1錠1日1回(起床時)

 4週間の治療によって症状がまったく改善しない場合、あるいは初診時から不登校が1カ月以上継続している場合には、専門医に紹介する。

ケアおよび在宅でのポイント
 「身体機能の治療を優先しながら、少しずつ子どもの心理面をサポートする」というスタンスが必要である。患児は言語化が乏しい上に、「身体がつらいのであって、心に問題はない」と考えていることが多く、共感と受容、信頼関係の確立という基本的な心身医学的治療態度が重要である。

 また、起立性調節障害から生じる身体・心理・社会的な二次障害を最小限にとどめることが重要である。患児は、保護者や学校関係者に対して不信感を持ち、精神不安定や引きこもりなどの二次障害を起こしがちである。医師には、保護者や学校関係者への丁寧な説明も求められる。医師一人で抱え込むには荷が重くなる場合も多く、小児精神科医・小児心身症専門医に紹介して、チーム医療を行うことも重要である。