■ ホウ酸団子の誤食


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   ホウ酸団子は,遅効性であるが致死効果が確実なゴキブリ退治用の毒餌である。家庭でも簡単に作れ(セクション36.参照),市販品も多い(表1)。しかしその毒性に対する認識は十分とはいえず安易に扱われる傾向があり,乳幼児の中毒事故の報告も多い。


毒性
   市販品はホウ酸を5〜70%,手作りホウ酸団子は50%以上含む。一般のホウ酸団子1個の重さは10〜15gで,含有量を50%とするとホウ酸を約5〜7g含有することになり,1個を全部食べれば致死量に近い。毒性は表2のとおりで,死亡率は成人36〜50%,小児60〜70%である。小児の1g以上の摂取では慎重な対応が必要である。

体内動態
   健康な皮膚面からの吸収は極めて低いが,消化管,粘膜,傷のある皮膚からは特に良く吸収される。吸収は速く,消化管から1時間以内にほとんどが吸収され,脳・肝・腎に分布し,腎臓から代謝を受けずに排泄される。排泄は遅く,正常人では12時間で50%,48時間で70%,5日間で80%,中毒量のすべての排泄には5〜7日間かかる。さらに腎障害者や新生児では2〜5倍に延長する。

中毒症状
  ホウ酸には細胞毒性(特に尿細管上皮)と中枢神経抑制作用がある。不可逆的な組織障害を起こし,中でも腎臓で高濃度になり腎不全を起こすこともある。粘膜,経口吸収のいずれでも消化器症状から発現する。症状発現に数時間かかることがある。死亡は発症後5日目位である。

消化器: 悪心,嘔吐,下痢,腹痛,出血性胃腸炎,吐物や下痢便は青緑色。   
神 経: 頭痛,不穏,脱力感,痙攣,昏睡(中枢神経系の抑制を伴う)。  
肝・腎: 黄疸,肝腫,高窒素血症,蛋白尿,乏尿など。  
呼 吸・循環器: 過呼吸,低血圧,チアノーゼ,ショック。  
皮 膚: 猩紅熱に似た紅斑性発疹が現れ,3〜5日目に剥離(口唇,肛門,口腔部にも発現)。     
その他: 視力障害,聴覚障害。代謝性アシドーシス。通常は低体温だが,発熱することがある。ホウ酸はリボフラビンと結合して尿中排泄が増加するため血中リボフラビンが低下する。


中毒の処置
  家庭では催吐させるが,食べたりかじったりした場合は,受診の指示が必要である。特異的な治療法や解毒剤・拮抗剤はない(表3)。

催吐・胃洗浄
吸着剤として活性炭(1g/kg→水100〜200mL)を投与
下剤としては硫酸マグネシウム(0.5g/kg→水100〜200mL),マグコロール®P(1g→水4mL/kg),ソルビトール液 5mL/kgのいずれかを投与。
輸液にはビタミンB2,肝保護剤を加える。炭酸水素ナトリウム注(メイロン®)で代謝性アシドーシスを補正する。
対症療法として痙攣にはジアゼパム注(セルシン®),フェノバルビタール注(フェノバール®)を投与。
その他,呼吸・循環管理を行い,重症例では腹膜灌流や血液透析を施行する