■ いま、アトピー性皮膚炎治療の現場が熱い!


―主役はJAK阻害薬?―
2022/01/13
佐藤 俊次(さとう皮膚科)
皮膚科
JAK阻害薬
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 アトピー性皮膚炎治療の現場では、この10数年前まではステロイド外用薬と保湿薬、さらに、かゆみ止めの抗ヒスタミン薬とで、何とか手を変え品を変えやり繰りするのが日常診療でした。その後、プロトピック軟膏(一般名タクロリムス)が販売され、やっと変化のある治療が可能となってきましたが、その後は長らく新規薬剤が出てきませんでした。

 約3年前に抗体薬であるデュピクセント(デュピルマブ)がアトピー性皮膚炎治療の現場に登場した時は、アトピー性皮膚炎治療に革命が起きた感さえ覚えました。デュピクセントは結膜炎症状以外大きな副作用もほぼなく、いまや中等度、重度のアトピー性皮膚炎治療の中心的な治療薬となっていると思います。ただし、デュピクセントは経過が良いからといって投与を中断することは推奨されていません。また、もし投与を中断したとして、再開時にはデュピクセントに対する抗体ができてしまって効果が減弱する可能性があることが推測されています。一方で、最近では、2週間間隔の投与を3週間に延長するといった報告もなされており、今後の報告の蓄積が待たれます(表1)。


表1 デュピクセントの特徴

 また、1年半前からはプロトピック軟膏に次ぐ、ステロイドではない外用薬としてJAK阻害薬コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)が登場しました。現在では2歳以上の小児でも使え、血液検査など使用前の検査は特に必要ありません。また、とても安価な薬剤であるため、様々な年齢層のアトピー性皮膚炎患者さんに生物学的製剤治療を用いることができるようになりました。さらに、外用薬では新しい作用機序であるPDE4阻害薬が出てきます。これは、免疫細胞におけるサイトカインなどの炎症性メディエーターの産生を高める作用のある酵素であるPDE4を阻害することで炎症を抑制するという作用機序の軟膏です。内服薬としてすでに尋常性乾癬においてオテズラ(アプレミラスト)の商品名で販売されています。尋常性乾癬では既に使われている先生方もいらっしゃると思います。PDE4阻害薬であるモイゼルト(ジファミラスト)軟膏は既に販売承認は取得しているものの、現在時点では、理由は不明ですが販売が延期になっています(表2)。


表2 アトピー性皮膚炎治療用の最近の外用薬一覧

 中等症から重症のアトピー性皮膚炎がコントロールに難渋するのは、それらに生じる痒みに対して既存の内服薬の抗ヒスタミン薬が効果を示さない例があるからです。デュピクセントはこれらの痒みを、IL-4、IL-13などのTh2リンパ球が産生するサイトカインの機能を抑制することで劇的に抑制します。当院の数少ないデュピクセント治療中の患者さんからもその効果を聞いています。しかし、デュピクセントはよく効きますが、注射薬であるため、なんとなく躊躇したり、苦手意識を持つ人もいると思います。

 そんな中、昨年、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さんの治療を進める上で、痒みの抑制効果が期待されるJAK阻害薬の3薬剤が立て続けに発売されました。いずれも内服薬なので注射薬以外の選択肢が出てきたことになります。

 JAK阻害薬は、Th2リンパ球のサイトカイン受容体の細胞内ドメインと相互作用するJAKファミリー(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)の活性化を阻害することにより、JAK-STATシグナル伝達回路を阻害して炎症性サイトカインの産生を抑制します(図1)。


図1 JAK阻害薬作用機序:JAK-STATシグナル伝達回路を阻害することで炎症性メディエーター産生を抑制する

 まだ、発売されて間もないので、学会などでの使用報告も少なく、これからさらに勉強していかなければなりません。著者が調べた限りの3薬剤の特徴を表にまとめてみました(表3)。


表3 アトピー性皮膚炎治療のための新規JAK阻害内服薬一覧

 これら3薬剤全てが1日1回1錠を毎日内服なので、患者さんにとっては利便性が高いと言えるでしょう。また、これら3薬剤全てが、症状に応じて用量調節が可能であるとされています。それゆえ、何らかの理由で内服の間隔を空けてしまったり、中断した後でも、再開時には再び効果が期待できる可能性があります(このことは今後のさらなる検討が待たれますが)。アトピー性皮膚炎は、生涯に渡って継続して治療していく疾患です。症状の良いときや多忙な時などに治療を中断したり、治療を忘れてしまったりすることはしばしばあることです。そのため、用量調節が可能な内服薬はとても使いやすい薬だということになります。

 ただし、これら3剤の使用にあたっては、厚生労働省から最適使用推進ガイドラインが発出されています。アトピー性皮膚炎治療に精通した医師や重篤な副作用が発現した時に緊急の対応が可能な医療施設での処方などの要件が求められています。また、事前に結核を除外するための胸部X線検査やツベルクリン検査、内服治療中には間質性肺炎に対する注意や、血液検査による血算、肝臓、腎臓機能検査などを定期的にすることが必要です。また、免疫抑制薬であるため、生ワクチン接種ができないなどの制約があります。副作用についても、結核やニューモシスチス肺炎、帯状疱疹などの発症やB型肝炎ウイルスの再活性化の可能性にも注意が必要とされています。オルミエント(バリシチニブ)は15歳以上、リンヴォック(ウパダシチニブ)やサイバインコ(アブロシチニブ)は12歳以上と適応年齢も違っています。さらには、なんといっても高額であり、誰もがすぐにそれらの恩恵にあずかれるわけではないかもしれません。

 我々プライマリ・ケア医にとってこれらの内服薬の登場をどう考えればよいのでしょうか。抗ヒスタミン薬のように長い使用経験がありませんし、処方時に必要な検査は多岐にわたりますし、副作用のモニタリングはこれまでとは全く違う考え方で行う必要がありそうです。自分の医院内で胸部X線などできない医院もあると思います。すると、これからの新薬はあきらめなければならないのでしょうか?開始当初は大学病院や市中病院などで開始した患者さんのコントロールができた時点で逆紹介を受けるというのも一つの方法です。また、医師会などで他科との連携が密にとれるような関係が構築された環境であれば協力をお願いして初めから導入するのも可能かもしれません。何らかの工夫の余地はありそうです。しかしながら、これらJAK阻害薬の使用をするからには、我々担当医が薬剤に対する十分な知識を持って対応することが重要と思われます。

 以上のように、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さんの治療の上で選択肢が増えたことは好ましいことに変わりありません。さらに、アトピー性皮膚炎については多数の新薬の治験が進行しており、今後も次々と新薬が登場すると期待されています