■ リポート◎治療薬の選択肢が増えたアトピー性皮膚炎診療【外用薬編】


アトピーへの第三の外用薬を使いこなせ!
刺激はほとんどないが、速効性はステロイドに劣る
2022/01/18



 ステロイド、タクロリムスに次ぐ第3のアトピー性皮膚炎の外用薬として2020年に登場した外用JAK阻害薬のデルゴシチニブ(商品名コレクチム軟膏)。2021年3月に2歳以上の小児に適応を拡大したことで、小児から成人まで幅広い年齢層で使用できる外用薬となった。ステロイドやタクロリムスで危惧される副作用がないため、ステロイド忌避(いわゆるステロイドフォビア)にも使いやすいが、速効性はステロイドに劣りそうだ。


「ステロイド忌避の患者に対しては、いきなりステロイドによる治療を強制せず、信頼関係の構築に務める」と言う広島市立広島市民病院の秀道広氏。

 「1990年代に比べれば減ったが、今でもステロイドを恐れるいわゆるステロイドフォビアの患者は一定数存在する」。こう語るのは、広島市立広島市民病院病院長の秀道広氏。「ステロイド外用薬の長期連用で皮膚が薄くなるなどの副作用が生じることがあるのは事実。また、中途半端に使用して中断するとすぐに悪化するため、『ステロイドは根本的な治療薬ではない』と考える患者が少なくないのかもしれない」と推測する。
 
 富山大学小児科学講座教授の足立雄一氏も「以前ほどではないが今でも、ステロイドに拒否感を持っている保護者はいる」と言う。足立氏は、そのような保護者の中には、医療全体への不信感を持つケースがあると考える。

 秀氏は、そのような患者に対してはいきなりステロイドによる治療を強制せず、まずは「通院を続けてもらいながら少しずつ対応可能な課題を克服し、信頼関係を構築するよう努めている」と話す。足立氏も同様の方針で、「患児が医療につながっていることを優先している」と語る。医療機関につなぎ留めることに失敗した患者がアトピー性皮膚炎では非常に多いことを、両氏ともよく知っているためだろう(関連記事:半数が無治療!アトピー患者に新薬の恩恵を)。

タクロリムスの発がんリスクは長期市販後調査で否定されたが…
 アトピー性皮膚炎治療のための抗炎症外用薬としては、デルゴシチニブが登場するまで、長い間、ステロイド以外の唯一の選択肢だったのがタクロリムス(プロトピック軟膏)だ。ただし、タクロリムスの添付文書には、マウスでリンパ腫が増えたことを説明することを求める警告が存在していた(囲み)。「ある種のマウスで悪性リンパ腫が増えたのは事実であり、そのためタクロリムスを嫌がる患者は少なからず存在する」と秀氏。

プロトピック軟膏 0.03%小児用の添付文書から
【警告】(2021年12月に削除)
 マウス塗布がん原性試験において、高い血中濃度の持続に基づくリンパ腫の増加が認められている。また、本剤使用例において関連性は明らかではないが、リンパ腫、皮膚がんの発現が報告されている。本剤の使用にあたっては、これらの情報を患者又は代諾者に対して説明し、理解したことを確認した上で使用すること。

【重要な基本的注意】(2021年12月に新規追加)
 本剤の免疫抑制作用により潜在的な発がんリスクがある。長期の国内製造販売後調査において、悪性リンパ腫、皮膚がん等の悪性腫瘍の報告はなく、長期の海外疫学研究においても、本剤の使用による発がんリスクの上昇は認められなかった。一方、本剤使用例において関連性は明らかではないが、悪性リンパ腫、皮膚がんの発現が報告されている。本剤の使用にあたっては、これらの情報を患者又は家族に対して説明し、理解したことを確認した上で使用すること。

 添付文書からこの警告が削除されたのは2021年12月。これは、タクロリムス市販後、国内で実施した複数の10年間にわたる追跡調査で、ヒトでの発がん例が認められなかったことを受けたもの。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は2021年9月に実施したタクロリムスの再審査で、この警告を削除し、潜在的発がんリスクは重要な基本的注意において言及するかたちとした。秀氏は「長期間の追跡調査の結果に基づいて警告文がなくなったことは高く評価したい」と語る。

 今後、市販後調査の結果が患者家族に広く知られるようになれば、発がんリスクを危惧してタクロリムスの使用をためらう症例は減ると期待される。ただし、タクロリムスには使用時に刺激感があり、「刺激感からタクロリムスを嫌がる患者への選択肢が求められていた」(足立氏)。

新規外用薬の登場で「ステロイドの使用は最小限に」が可能に

外用JAK阻害薬の適応が小児に拡大したことを評価する富山大学小児科学講座の足立雄一氏。

 このような状況下で、ステロイドやタクロリムスとは異なる副作用プロファイルを有する新規外用抗炎症薬の登場は臨床現場で歓迎されている。デルゴシチニブに加え、2021年9月に製造販売承認を獲得した外用PDE4阻害薬のジファミラスト(モイゼルト)は、現在、発売が延期されているが、「どちらもほとんど刺激感がなく、使いやすい」と秀氏は評価する。

 足立氏も、外用JAK阻害薬の適応が小児に拡大したことを評価する。「ステロイドのように、顔と体で異なる外用薬を用いる必要がなく指導もしやすい」とも言う。

 ただし、デルゴシチニブもジファミラストも抗炎症作用はステロイド外用薬のメディウムからストロング程度であり、「炎症の抑制効果や速効性ではより強力なステロイドに劣る。炎症のひどい部位はステロイド外用薬で改善し、維持薬として外用JAK阻害薬を用いている」と足立氏。秀氏も同様の考えで、「維持薬として用いるのによい薬剤」と評価する。

 すなわち、症状が軽ければデルゴシチニブで治療してもよいが、炎症が強い部位は短期集中的に作用の強いステロイド外用で治療し、炎症が治まってきたらデルゴシチニブに切り替えるという治療戦略だ。ステロイドの使用を短期間に限定することで、長期使用で生じ得る副作用の懸念は少なくなる。これまでもタクロリムスを維持薬とすることが多かったが、刺激感などから使用しにくい場合にデルゴシチニブはよい選択肢となるだろう。ジファミラストが発売されれば、デルゴシチニブの代わりに用いるという選択肢も出てくるだろうが、両剤の適切な使い分けについては、今後のデータの蓄積が必要だ。

 秀氏は、「外用薬のみでコントロールできない場合は、経口薬や注射薬などの追加を考慮する」と、さらなる治療選択肢の広がりを指摘する(関連記事:アトピー性皮膚炎GL、抗体医薬や経口・外用JAK阻害薬を推奨に追加)。現在、12歳以上であれば、経口JAK阻害薬を、15歳以上では皮下注製剤のデュピルマブ(デュピクセント)を使用できる。「新規治療薬に関しては、安全性に関するデータの蓄積も必要だが、アトピー性皮膚炎は良好な皮膚の状態を長期間維持することで治癒し得る疾患。『アトピー性皮膚炎は治らない』とあきらめずに、早めにきちんとした治療を実施し継続することが大切」と秀氏は強調する。

 さらに、「アトピー性皮膚炎の治療効果を高めるためには、環境を整え、適切な塗り薬を毎日塗布するなど、患者自身の努力が不可欠」と秀氏。治療は長期間を要するため、「医師は、患者の努力を引き出して治療を継続するためのアドバイスを行う“伴走者”となる必要がある」と医師の心構えについても語る。