■ バルサルバ手技で徐脈になる理由

バルサルバ手技で徐脈になる理由
 前述の通り、バルサルバ手技を行うと頻脈になります。交感神経が緊張しているからですね。で、交感神経が緊張すると末梢血管がしまって抵抗が増大します。ここからが大事なところで、この時息こらえをやめて息を吐くと、静脈還流量が増えて心臓に血液が満たされ1回拍出量が増加するのです。末梢血管抵抗が増大している状態で1回拍出量が増加するので血圧は上昇します。この血圧上昇効果は高く、血圧はバルサルバ手技を行う前より高くなるのです。頚動脈洞には血圧センサーがあり、血圧が上がると脈が遅くなるように調節する機構が人間には備わっており、血圧が上昇した結果、反射的に徐脈になります。

 つまり、息こらえで徐脈になるのではなく息こらえからの解放で徐脈になるのです。

最近の報告
 さてさて、このありがたいバルサルバ手技(からの解放)。息をこらえて頑張ったらどれだけの上室性頻拍発作が治るかというと、5〜20%程度だそうです。これではアントニオ泣いちゃいます。

 そこで、なんとかこの手技の成功率を高められないかという事で「Modified Valsalva manoeuvre=修正バルサルバ法」が考案されました。そしてついこの間、この修正法と古典法とどっちが効果的かを調べたRCTがLANCET誌に報告されました。

修正バルサルバ法
 修正バルサルバ法のやり方ですが、通常のバルサルバ手技(45度の半座位で15秒の息こらえを行って解放)を行った直後に仰臥位に寝かせ、45度に下肢を挙上させて15秒保持します。ここまで読んでくださった人は、この手技により何が起こるか想像がつくと思います。バルサルバ手技の後にさらに静脈灌流を増やして血圧を上げようということです。ではこの修正法と古典的バルサルバ法のどちらがより不整脈治療につながったのでしょう。

 それぞれ214名の発作性上室性頻拍の患者に手技を行い、1分後の心電図で治療効果を判定したところ、古典法37/214 (17%) vs 修正法93/214 (43%) (オッズ比 3.7, 95%信頼区間:2.3-5.8;P<0.0001)という結果となっています。すごいぞ修正法!!