■ 小児の救急

子どもで注意すべき症状と痙攣重積への対応【研修最前線】
虎の門病院「初期研修医向け院内合同セミナー」

m3.com編集部2022年7月6日 (水)配信 小児科疾患救急
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伊藤純子氏

 虎の門病院小児科部長の伊藤純子氏による、同院初期研修医向け院内合同セミナー「小児の救急と虐待への対応」。第4回は、子どもで注意すべき症状と治療法について。注意が必要な症状を挙げ、さらに痙攣重積への対応について解説する。

前回の記事 『小児の診療で注意すべき薬剤とは?』 はこちら
5分以上の痙攣・腹痛・嘔吐には注意
伊藤純子氏 子どもで特に警戒すべき症状として、まず痙攣が挙げられます。ほとんどは熱性痙攣で、5分以内には止まります。ですから「救急車で痙攣患者が来ます」と言われたときに、もう既に止まっているものは大丈夫です。けれども、まだ痙攣が続いているときは要注意です。この場合は痙攣重積といいますが、大体はかなり重篤な疾患のサインになります。

 おなかが痛いというのも、子どもでは要注意です。特に注意が必要なのは、虫垂炎や腸重積です。子どもの虫垂炎は大人よりもまれですが、あっという間に穿孔します。おなかが痛くて虫垂炎の症状がいったんははっきりしてきたのに、その後穿孔してしまうと今度は局所的な痛みが分からなくなってしまいます。子どもの虫垂炎は、汎発性腹膜炎になっていることがよくあります。そうなると、何となくおなかが痛いけれども局所所見が明確でなく、診断が遅れてしまいます。

 嘔吐にも、虫垂炎、腸重積、その他のイレウスで緊急対応が必要な疾患が多く含まれていますが、ここでの落とし穴は心筋炎です。ウイルス性の心筋炎なのに、胃腸症状のような形で来る小児がいるのです。

3カ月未満の熱と、「なんとなくおかしい」
 この他には、生後3カ月未満の熱も要注意です。IgG抗体は母体から移行するので、新生児は通常のウイルスに対する免疫をある程度母親からもらってきています。3-4カ月でそれが半減していって、だんだんウイルス感染症で熱を出しやすくなります。ですから生後3カ月未満で熱が出た場合は、確率的に見ても緊急に対処が必要な細菌感染症、髄膜炎、尿路感染症などの割合が高いので、全身状態にもよりますが、生後3カ月未満の熱は全例入院精査としている医療機関もあります。救急で「発熱の子です」という連絡を受けることがありますが、その子が何歳かが非常に大事なのはこのためです。生後1-2カ月の子が熱を出したという連絡を受けたら、心して待っていなくてはなりません。

 このほか、母親が「いつもと比べると何となく様子がおかしいんです」と言っているときも、要注意です。家族は普段のお子さんの状態を一番よく知っているので、そういう人がいつもと違うと言っているときはきちんと診ておく必要があります。


痙攣重積への対応
 通常の熱性痙攣の多くは5分未満で止まりますが、止まらないものが痙攣重積です。対処の基本は一次救命処置(BLS;basic life support)と同じで、気道を確保して、チアノーゼがあればバッグマスクで酸素を投与しながら、全身状態の観察をしてモニターを装着します。長く続くものは静脈を確保して、初回採血(スクリーニングの採血)の後、迅速に抗痙攣薬を投与し、バイタルサインを安定させ、痙攣を止めるようにします。

 抗痙攣薬は今でもジアゼパムをよく使いますが、その次は、今はほとんど抗痙攣薬のミダゾラムを使っています。ミダフレッサ(商品名)という痙攣重積に適応のあるミダゾラム製剤が出てきたので、それを小児の救急カートには入れておくようにしています。ミダゾラムを静注しても止まらなければ、フェニトインやフェノバルビタールを使っていくことになります。こうした抗痙攣薬を使うと呼吸抑制を来すことがあるので、呼吸状態をモニターしながらバイタルサインに注意して投与していきます。多くの場合は、この辺りで痙攣が止まります。

 先ほど言ったように、慌てていると、痙攣重積で静脈ルートが確保できないことがよくあります。骨髄針を入れるほど、つまり蘇生が必要なほどにはバイタルサインが悪くないといったときに、取りあえずの処置で使えるのが坐剤のジアゼパム(商品名ダイアップ)とミダゾラムです。ミダゾラムは点鼻投与でも効くということから、海外のガイドラインでは点鼻での使い方も治療指針に入っていますが、残念ながら日本ではまだ正式に認められた使い方にはなっていません。ただ、こういう投与法も可能だということは、救急のときに知っておくといいでしょう。


3カ月未満の乳児は要注意
 先ほども触れましたが、3カ月未満の乳児の場合は重篤な感染症の割合が他の場合よりも高いので、当院でも発熱があれば原則入院精査です。今まであった例は、細菌性髄膜炎や尿路感染症です。尿路感染症も、乳児の場合は血行性に全身的な菌血症になってしまうことが多いので、半日ぐらい様子を見ているうちに血小板が下がってしまった症例も経験しています。

 私が経験した一例をご紹介します。母親が産後の1カ月健診に赤ちゃんと一緒に来たのですが、「何となく今朝からこの子の元気がないんです」ということで、赤ちゃんが小児科に連れて来られました。ぱっと顔を見たらチアノーゼになっていました。RSウイルス感染で無呼吸が引き起こされていたのです。生後1-2カ月の乳児では、熱が出ないのに、ウイルス感染で全身状態が悪くなってしまうようなことが実際に起こります。ですから、3カ月未満の乳児には注意が必要です。

(つづく)

※次回は、虐待への対応と救急時に役立つツールについて解説。

関連リンク
虎の門病院 初期研修医向け院内合同セミナー「小児の救急と虐待への対応」
Vol. 1 小児診療のコツは「すぐに触らない」
Vol. 2 小児救急でのトリアージ手順と重症患者への対応
Vol. 3 小児の診療で注意すべき薬剤とは?
Vol. 4 子どもで注意すべき症状と痙攣重積への対応
Vol. 5 (2022年7月13日掲載予定)