■ 起立性調節障害

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脇 小児の起立性調節障害(orthostatic dysregulation、OD)に関す
る質問です。成人の起立性調節障害と
いうと、神経調節性失神などはなじみ
があるのですが、ODが小学生で5%、
中学生だと、なんと10%もあるという
から、すごい数ですね。
五島 そうですね。潜在的な患者さ
んはかなりいて、それが病気として認
められているか、病気ではなくて、日
常生活を普通に送っているかというと
ころだと思います。
池脇 あとから出てくると思うので
すが、自覚症状、立ちくらみ、朝なか
なか起きられない、だるいなど、いわ
ゆる怠け病と、誤診されるという問題
がありますね。
五島 そうですね。この病気は、実
際、先生がおっしゃるように、循環器
疾患、体の疾患としての部分と、あと
はストレスなど心理・社会的な状況に
よって症状が増強してしまうことがあ
りますので、体がどれぐらい悪くて、
心がどれぐらい寄与しているかという、
その割合ですね。純粋に本当に循環器
だけの病気で、心の問題は全くないの
か、あるいは循環器は全く問題ないが、
心の問題が非常に大きいのか。多くは
その両方がある程度の割合で入ってい
て、時と場合によって、あるいは季節
によって体の症状が強く出て、心の問
題が上にちょっと乗っている。あるい
は逆に、心の部分が大きくて、体の異
常はあまりないということが、時期等
によって変わってくるところが診断上
難しいですね。
池脇 思春期に多いと聞いています
が、長い目で見るとだんだんと落ち着
いてくる病気なのですか。
五島 「一生このままだったらどう
しよう」と思われる親御さんが多いの
ですが、ほぼ大人になれば治ります。
そのあたりはあまり治療を急がないで、
「大きくなれば治りますよ」というよ
うに対処していくことが大事だと思い
ます。
池脇 そうはいっても、中学、高校
の大事な時期に、場合によっては学校
に通えないとなると、本人あるいは親
御さんもすごく心配されるのでは。
五島 心配されますね。最終的には、
無理に起こして学校に行かせるよりは、
通信制でもいいから、最終的に大検で
大学に行かせるとか、そこまで指導す
るケースも重症例ではあります。ある
程度無理しないというか、受験の時期
が過ぎると急に治ったりすることもあ
りますから、そうであれば時期を待つ
しかない、そういう説明をすることも
あります。
池脇 診断法と分類はどうなってい
るのですかという質問ですが、最初の
診断基準が1960年ですから、だいぶ古
いですね。
五島 そうですね。
池脇 どのように変わってきたので
しょうか。
五島 昔は本当に自覚症状のみで、
質問紙を用いて、それに該当すれば起
立性調節障害という、ざっくり、症状
からの診断でした。それが10年ぐらい
前に変わって、まず問診でスクリーニ
ングをした後(表1)に、あくまでも
新起立試験、起立試験で心拍数、血圧
を、仰臥位から起立後1分、3分、5
分、7分、10分のときに測り、その心
拍あるいは血圧の変化を見て、きちん
と体の部分からの診断を行う。さらに
最終的にはもう一つスクリーニングの
質問で、心身症としての起立性調節障
害、心理・社会的な影響を見る質問紙
を組み合わせて、体と心の両面から診
断するようになりました。
池脇 成人の失神の鑑別では、神経
調節性失神でもいろいろなパターンが
あって、なかなかわからないのですが、
お子さんに起立試験を行って、血圧の
下がる時期や、あるいは心拍数の増え
方で病態が違うという理解なのでしょ
うか。
五島 多くは大きく分けて起立直後
性低血圧と、体位性頻拍症候群の2つ
です。起立した後に血圧が下がって、
戻るまでの時間が非常に長くかかるパ
ターンが起立直後性低血圧で、もう一
つの頻拍は、今言った血圧が下がるの
に合併していることもありますが、主
に脈拍数が増加して、それが元に戻ら
ないのです(表2)。
池脇 失神までいく子どもさんもい
るのでしょうか。
五島 非常にまれですが、完全に失
36(676) ドクターサロン63巻9月号(8. 2019) ドクターサロン63巻9月号(8. 2019) (677) 37
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東海大学耳鼻咽喉科准教授
五 島 史 行
(聞き手 池脇克則)
 小児の起立性調節障害についてご教示ください。
 1.最近の診断法と分類
 2.薬物療法における薬剤の選択と投与方法、投与期間
<埼玉県開業医>
小児の起立性調節障害
池脇 小児の起立性調節障害(orthostatic dysregulation、OD)に関す
る質問です。成人の起立性調節障害と
いうと、神経調節性失神などはなじみ
があるのですが、ODが小学生で5%、
中学生だと、なんと10%もあるという
から、すごい数ですね。
五島 そうですね。潜在的な患者さ
んはかなりいて、それが病気として認
められているか、病気ではなくて、日
常生活を普通に送っているかというと
ころだと思います。
池脇 あとから出てくると思うので
すが、自覚症状、立ちくらみ、朝なか
なか起きられない、だるいなど、いわ
ゆる怠け病と、誤診されるという問題
がありますね。
五島 そうですね。この病気は、実
際、先生がおっしゃるように、循環器
疾患、体の疾患としての部分と、あと
はストレスなど心理・社会的な状況に
よって症状が増強してしまうことがあ
りますので、体がどれぐらい悪くて、
心がどれぐらい寄与しているかという、
その割合ですね。純粋に本当に循環器
だけの病気で、心の問題は全くないの
か、あるいは循環器は全く問題ないが、
心の問題が非常に大きいのか。多くは
その両方がある程度の割合で入ってい
て、時と場合によって、あるいは季節
によって体の症状が強く出て、心の問
題が上にちょっと乗っている。あるい
は逆に、心の部分が大きくて、体の異
常はあまりないということが、時期等
によって変わってくるところが診断上
難しいですね。
池脇 思春期に多いと聞いています
が、長い目で見るとだんだんと落ち着
いてくる病気なのですか。
五島 「一生このままだったらどう
しよう」と思われる親御さんが多いの
ですが、ほぼ大人になれば治ります。
そのあたりはあまり治療を急がないで、
「大きくなれば治りますよ」というよ
うに対処していくことが大事だと思い
ます。
池脇 そうはいっても、中学、高校
の大事な時期に、場合によっては学校
に通えないとなると、本人あるいは親
御さんもすごく心配されるのでは。
五島 心配されますね。最終的には、
無理に起こして学校に行かせるよりは、
通信制でもいいから、最終的に大検で
大学に行かせるとか、そこまで指導す
るケースも重症例ではあります。ある
程度無理しないというか、受験の時期
が過ぎると急に治ったりすることもあ
りますから、そうであれば時期を待つ
しかない、そういう説明をすることも
あります。
池脇 診断法と分類はどうなってい
るのですかという質問ですが、最初の
診断基準が1960年ですから、だいぶ古
いですね。
五島 そうですね。
池脇 どのように変わってきたので
しょうか。
五島 昔は本当に自覚症状のみで、
質問紙を用いて、それに該当すれば起
立性調節障害という、ざっくり、症状
からの診断でした。それが10年ぐらい
前に変わって、まず問診でスクリーニ
ングをした後(表1)に、あくまでも
新起立試験、起立試験で心拍数、血圧
を、仰臥位から起立後1分、3分、5
分、7分、10分のときに測り、その心
拍あるいは血圧の変化を見て、きちん
と体の部分からの診断を行う。さらに
最終的にはもう一つスクリーニングの
質問で、心身症としての起立性調節障
害、心理・社会的な影響を見る質問紙
を組み合わせて、体と心の両面から診
断するようになりました。
池脇 成人の失神の鑑別では、神経
調節性失神でもいろいろなパターンが
あって、なかなかわからないのですが、
お子さんに起立試験を行って、血圧の
下がる時期や、あるいは心拍数の増え
方で病態が違うという理解なのでしょ
うか。
五島 多くは大きく分けて起立直後
性低血圧と、体位性頻拍症候群の2つ
です。起立した後に血圧が下がって、
戻るまでの時間が非常に長くかかるパ
ターンが起立直後性低血圧で、もう一
つの頻拍は、今言った血圧が下がるの
に合併していることもありますが、主
に脈拍数が増加して、それが元に戻ら
ないのです(表2)。
池脇 失神までいく子どもさんもい
るのでしょうか。
五島 非常にまれですが、完全に失
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神して意識を失って転倒して頭部にけ
がをしていることもあります。頻度と
しては低いですが、その可能性もきち
んと考えないといけないと思います。
池脇 確かに循環器系に何かの異常
があって調節障害をきたす病気ですが、
メンタルな要素が加わるということで
すので、分類できたとしても、お子さ
んごとに背景が違うのですね。
五島 そうですね。なので、その子
が置かれている家庭環境とか社会的な
背景を十分問診し、きょうだいとの関
係、両親との関係や住んでいるところ、
生活習慣、早寝早起きのようなことが
守られているかどうか、そういったこ
とまで介入しないと、簡単にこういう
症状だからこういう薬で治しましょう
とはいかないです。
池脇 学校に通っているお子さんで
は、学校に通うかどうか、また学校の
対応まで含めると、たいへんですね。
五島 医師の側として学校生活にど
こまで介入するかという問題はありま
す。ただ長時間の起立で血圧が下がっ
て転倒してしまうことがありますから、
明確に診断がついた後は学校に対して
も、朝礼での起立が長いときはなるべ
く避けるとか、体調が悪いときには、
特にマラソンなどの運動は避けるよう
に、コメントしたほうがいい場合もあ
ると思います。
池脇 今回の質問は、どういった薬
を使ったらいいのかということですが、
当然最初は、非薬物療法からのアプロ
ーチなのですか。
五島 まず、最近多いのはスマホな
どを見ていて夜更かしをしてしまうケ
ース。スマホが悪いのは2つありまし
て、1つはブルーライトを長時間浴び
ることで睡眠の深度が浅くなってしま
うこと。それから、夜更かしをして遅
寝遅起きになり、生活習慣が乱れてし
まうことで自律神経が乱れ、ODにな
りやすいということがあります。まず
は基本的な生活ができるように指導す
ることです。
池脇 非薬物療法として水分を十分
取る、あるいは塩分も十分取る。起立
性低血圧に対する対処ですね。
五島 そうですね。そういった治療
の効果が出るのにはある程度の期間が
かかりますから、今先生がおっしゃっ
たような塩分摂取、水分摂取は、毎日
必ず続けていく必要があるので、まず
それが治療の基本部分になります。
池脇 成人の神経調節性失神では、
足をクロスさせるとか、壁に寄りかか
って10分ぐらい立つようなリハビリを
やります。これはお子さんにも効果が
あるのですか。
五島 そうですね。そういった対応
も有用です。
池脇 そういう循環器系疾患として
の対応プラス、ストレス、家庭環境も
含めて、担当の先生はそこに関しても
同時にやっていかれるのですか。
五島 そうですね。
池脇 時間はかかっても、徐々に立
ち直ってくるのでしょうか。
五島 きちんと正確に診断をし、今
お話ししたような体の部分の異常と心
の部分の異常を見てあげながら経過を
見ていれば、ほとんどのお子さんは皆
さん治ります。まずはそういったこと
表2 4つのODサブタイプ
(1)起立直後性低血圧 instantaneous orthostatic hypotension(INOH)
起立直後の血圧低下からの回復に時間がかかるタイプ。
(2)体位性頻脈症候群 postural tachycardia syndrome(POTS)
血圧の回復に異常はないが、起立後心拍の回復がなく上昇したままのタイプ。
(3)神経調節性失神 vasovagal syncope(VVS)
起立中に急激な血圧低下によっていきなり失神するタイプ。
(4)遷延性起立性低血圧 delayed orthostatic hypotenstion(delayed OH)
起立を続けることにより徐々に血圧が低下して失神に至るタイプ。
起立性調節障害の中で(1)、(2)が多く、(3)、(4)は少ない傾向にあります。
しかし、(1)や(2)に引き続き(3)の神経調節性失神を起こしたり、
経過中にタイプが変わることもあります。
表1 起立性調節障害の身体症状項目(日本小児心身医学会)
・下記11項目のうち3項目以上(症状が強ければ2項目)が
「はい」「ときどき」の場合にODを疑い、起立試験を行う。
1 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
2 立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる
3 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
4 少し動くと動悸あるいは息切れがする
5 朝なかなか起きられず、午前中調子が悪い
6 顔色が青白い
7 食欲不振
8 強い腹痛をときどき訴える
9 倦怠あるいは疲れやすい
10 頭痛
11 乗り物に酔いやすい
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神して意識を失って転倒して頭部にけ
がをしていることもあります。頻度と
しては低いですが、その可能性もきち
んと考えないといけないと思います。
池脇 確かに循環器系に何かの異常
があって調節障害をきたす病気ですが、
メンタルな要素が加わるということで
すので、分類できたとしても、お子さ
んごとに背景が違うのですね。
五島 そうですね。なので、その子
が置かれている家庭環境とか社会的な
背景を十分問診し、きょうだいとの関
係、両親との関係や住んでいるところ、
生活習慣、早寝早起きのようなことが
守られているかどうか、そういったこ
とまで介入しないと、簡単にこういう
症状だからこういう薬で治しましょう
とはいかないです。
池脇 学校に通っているお子さんで
は、学校に通うかどうか、また学校の
対応まで含めると、たいへんですね。
五島 医師の側として学校生活にど
こまで介入するかという問題はありま
す。ただ長時間の起立で血圧が下がっ
て転倒してしまうことがありますから、
明確に診断がついた後は学校に対して
も、朝礼での起立が長いときはなるべ
く避けるとか、体調が悪いときには、
特にマラソンなどの運動は避けるよう
に、コメントしたほうがいい場合もあ
ると思います。
池脇 今回の質問は、どういった薬
を使ったらいいのかということですが、
当然最初は、非薬物療法からのアプロ
ーチなのですか。
五島 まず、最近多いのはスマホな
どを見ていて夜更かしをしてしまうケ
ース。スマホが悪いのは2つありまし
て、1つはブルーライトを長時間浴び
ることで睡眠の深度が浅くなってしま
うこと。それから、夜更かしをして遅
寝遅起きになり、生活習慣が乱れてし
まうことで自律神経が乱れ、ODにな
りやすいということがあります。まず
は基本的な生活ができるように指導す
ることです。
池脇 非薬物療法として水分を十分
取る、あるいは塩分も十分取る。起立
性低血圧に対する対処ですね。
五島 そうですね。そういった治療
の効果が出るのにはある程度の期間が
かかりますから、今先生がおっしゃっ
たような塩分摂取、水分摂取は、毎日
必ず続けていく必要があるので、まず
それが治療の基本部分になります。
池脇 成人の神経調節性失神では、
足をクロスさせるとか、壁に寄りかか
って10分ぐらい立つようなリハビリを
やります。これはお子さんにも効果が
あるのですか。
五島 そうですね。そういった対応
も有用です。
池脇 そういう循環器系疾患として
の対応プラス、ストレス、家庭環境も
含めて、担当の先生はそこに関しても
同時にやっていかれるのですか。
五島 そうですね。
池脇 時間はかかっても、徐々に立
ち直ってくるのでしょうか。
五島 きちんと正確に診断をし、今
お話ししたような体の部分の異常と心
の部分の異常を見てあげながら経過を
見ていれば、ほとんどのお子さんは皆
さん治ります。まずはそういったこと