■ インフルエンザワクチンの効果

インフルエンザワクチンは効果があるのでしょうか
答えは「あります」
ではどのくらいあるかというと「はっきりわかりません」

他のワクチンと同様インフルエンザワクチンも、現場での疫学的な調査、大規模な予防効果試験(臨床試験)、実験室でのデータ(抗体価の測定)などを元にとても複雑な統計手法を駆使してが効果を判定します
しかしインフルエンザワクチンの場合はもともとのウイルスが形を変えやすいのでさらに難しい要素が絡んできます
性差なく全年齢に及び国民の5〜10%が毎年インフルエンザにかかるといわれていますのに誠に心もとない話ですが仕方ありません

成書によると(予防接種の手引き 岡部信彦ら著)によると、米国の資料では以下のようです

一般的な高齢者の肺炎やインフルエンザによる入院を30〜70%減少可能、老人施設の入居者については、発症を30〜40%、肺炎やインフルエンザによる入院を50〜60%、死亡を80%減らすことができるとしています
これらはWHOをはじめ世界各国が認めています
一方、小児については大人に比べて効果が低いようですが、一定の効果は確実にあります


昨年のある薬品メーカーのインフルエンザワクチンの効果の数字です


臨床成績


1. 成人に対する臨床成績 20歳以上の健康成人100例を対象として、A型インフルエンザHAワクチン(A/カリフォルニア/7/2009(H1N1))0.5mLを上腕に2回皮下接種したときの中和抗体価及びHI抗体価を測定した。1回目接種後及び2回目接種後の抗体陽転率は下表のとおりであった([参考]他社製剤による成績)5)。


1997〜2000年において老人福祉施設・病院に入所(院)している高齢者(65歳以上)を対象にインフルエンザHAワクチンを1回接種し有効性を評価した。有効性の正確な解析が可能であった98/99シーズンにおける結果から、発病阻止効果は34〜55%、インフルエンザを契機とした死亡阻止効果は82%であり、インフルエンザHAワクチンは重症化を含め個人防衛に有効なワクチンと判断された。なお、解析対象者は同意が得られたワクチン接種者1,198人、非接種者(対照群)1,044人であった6)。
2. 小児に対する臨床成績2) 6ヶ月以上13歳未満の日本人健康小児68例を対象として、本剤を6ヶ月以上3歳未満には0.25mL/回、3歳以上13歳未満には0.5mL/回を、21日(±7日)間隔で2回皮下接種した。1回目接種後及び2回目接種後の免疫原性の結果は下表のとおりであった。


欧州医薬品庁(EMA)の季節性不活化インフルエンザワクチンの毎年の製造株変更時の安全性及び有効性の評価に関するガイダンス(CPMP/BWP/214/96)において、有効性(予防効果)と相関する免疫原性の評価基準が定められており、この基準を用いて免疫原性の評価を行ったところ、いずれの接種用量においても2回目接種後では3株全てで評価基準を3項目中1項目以上満たした。ただし、接種用量0.25mLのうち、6ヶ月以上1歳未満(17例)のサブグループにおいては、B型株で評価基準を3項目とも満たさなかった(抗体陽転率23.5%(4例)、GMT変化率2.4、抗体保有率23.5%(4例))。



臨床成績の表



中和法およびHI法による抗体陽転率※


採血時期 中和法 HI法
1回目接種21±7日後 87%(87例) 73%(73例)
2回目接種21±7日後 83%(83例) 71%(71例)

※陽転判定基準:A型インフルエンザウイルス(H1N1)に対する抗体価が40倍以上かつ接種前の抗体価からの4倍以上の上昇




免疫原性結果
<6ヶ月以上3歳未満:0.25mL:34例>


        HI抗体価※ HI抗体価※ HI抗体価※    
    測定
時期 抗体
陽転率 GMT変化率 抗体
保有率 中和
抗体
陽転率※※
A/カリフォルニア/7/2009 (H1N1)株 1回目
接種後 26.5%
(9例) 2.9 29.4%
(10例) 58.8%
(20例)
A/カリフォルニア/7/2009 (H1N1)株 2回目
接種後 58.8%
(20例) 5.4 58.8%
(20例) 85.3%
(29例)
A/ビクトリア/210/2009 (H3N2)株 1回目
接種後 38.2%
(13例) 4.4 38.2%
(13例) 44.1%
(15例)
A/ビクトリア/210/2009 (H3N2)株 2回目
接種後 76.5%
(26例) 9.0 76.5%
(26例) 73.5%
(25例)
B/ブリスベン/60/2008株 1回目
接種後 26.5%
(9例) 2.1 26.5%
(9例) 29.4%
(10例)
B/ブリスベン/60/2008株 2回目
接種後 44.1%
(15例) 3.9 44.1%
(15例) 44.1%
(15例)



<3歳以上13歳未満:0.5mL:34例>


        HI抗体価※ HI抗体価※ HI抗体価※    
    測定
時期 抗体
陽転率 GMT変化率 抗体
保有率 中和
抗体
陽転率※※
A/カリフォルニア/7/2009 (H1N1)株 1回目
接種後 73.5%
(25例) 7.7 76.5%
(26例) 88.2%
(30例)
A/カリフォルニア/7/2009 (H1N1)株 2回目
接種後 79.4%
(27例) 8.0 79.4%
(27例) 88.2%
(30例)
A/ビクトリア/210/2009 (H3N2)株 1回目
接種後 85.3%
(29例) 6.8 97.1%
(33例) 82.4%
(28例)
A/ビクトリア/210/2009 (H3N2)株 2回目
接種後 88.2%
(30例) 7.4 97.1%
(33例) 88.2%
(30例)
B/ブリスベン/60/2008株 1回目
接種後 44.1%
(15例) 3.7 58.8%
(20例) 50.0%
(17例)
B/ブリスベン/60/2008株 2回目
接種後 55.9%
(19例) 4.5 67.6%
(23例) 52.9%
(18例)

※HI抗体価については、EMAのガイダンス(CPMP/BWP/214/96)7)を参照
※※中和抗体陽転率は、各ワクチン株に対する抗体価が40以上かつ接種前の抗体価からの4倍以上の上昇を示した被験者割合




薬効薬理

インフルエンザHAワクチンを3週間隔で2回接種した場合、接種1カ月後に被接種者の77%が有効予防水準に達する。
接種後3カ月で有効予防水準が78.8%であるが、5カ月では50.8%と減少する。効果の持続は、流行ウイルスとワクチンに含まれているウイルスの抗原型が一致した時において3カ月続くことが明らかになっている。基礎免疫を持っている場合は、ワクチン接種群における有効予防水準は、3カ月を過ぎても維持されているが、基礎免疫のない場合には、効果の持続期間が1カ月近く短縮される。8)