■ 抗体陽性率が高いブラジルのマナウス市でCOVID-19入院患者が急増 | 2021/03/02 |
集団免疫獲得レベルに達したのに1月の入院患者数が前年の約6倍に 2021年1月にブラジルのアマゾナス州マナウス市で、COVID-19による入院が急増した。同市の献血者の血清抗体陽性率は、2020年10月に76%に達していたため、集団免疫が獲得できるレベルと考えられたにもかかわらず、1月の入院患者数は前年同期をはるかに超えた。ブラジルSao Paulo大学のEster C Sabino氏らは、同国での変異株などの情報に基づいて、入院患者が増加した理由を考察し、2021年1月27日のLancet誌電子版に報告した。 ブラジル北部のマナウス市では、2020年4月下旬にCOVID-19入院患者数がピークに達した後、減少に向かい5月〜11月の入院患者数は少なく抑えられていた。同市での流行のピークから約1カ月後の2020年6月には、献血者の44%がSARS-CoV-2ヌクレオカプシド蛋白質に対するIgG抗体を保有していた。さらに2020年10月には、この割合が76%(95%信頼区間67-98%)に達した。同様の現象は、ペルーのアマゾン川流域の都市イキトスでも見られ、抗体陽性率は70%(67-73%)と推定されている。理論的には、基本再生産数R0が3であるなら、人口の67%が抗体を持っていれば集団免疫を獲得できると考えられる。 ところが、2021年1月1日〜19日のマナウス市のCOVID-19入院患者数は3431人で、これは前年同期の552人を大幅に上回った。入院患者数の急増を説明する仮説として、著者らは以下の4つの仮説を検討した。 第1は、流行第1波のSARS-CoV-2感染率を高く推定しすぎており、2020年12月の時点で、実は集団免疫の閾値に達していなかったという可能性だ。献血者という限られたグループから推定した値が、現実の感染率より高かったのかもしれない。それでも、献血者と一般住民データの人口動態特性に明らかな差はなく、COVID-19の症状がある人は献血できないことを考えると、マナウス市には流行が第1波を超えない程度の抗体陽性者が存在していたと考えられる。今後は、より正確に地域の血清陽性率を推定するモデルを構築する必要がある。 第2に、流行第1波で感染した人々の抗体価が、2020年12月の時点で低下していた可能性が挙げられる。英国の医療従事者を対象とする研究では、初回感染から最長6カ月後まで、再感染はまれなことを報告している。マナウス市では第1波から7〜8カ月後に第2波が始まった。英国の研究が示した6カ月は超えていたが、抗体価の減少のみでは、第1波を超える第2波の到来は説明できない。また、マナウス市の人の動きは11月半ばに減少し、12月には大きく減少していたことから、行動の変化では入院患者の急増を説明できない。 第3は、SARS-CoV-2が変異し、以前の感染で獲得した免疫反応を回避できるようになった可能性だ。これまでに報告されている主な変異株は、英国で報告されたB.1.1.7、南アで報告されたB.1.351、ブラジルで報告されたP.1の3つだ。マナウス市では2021年1月にP.1が見つかっている。P.1系統でさらにE484KとN501Kを含む変異を起こしたウイルスによる再感染例が1例見つかっている。加えて、スパイク蛋白質にE484K変異を持つB.1.128株から分かれたP.2系統も、マナウス市を含むブラジル国内数カ所で見つかった。この株は、ブラジルでSARS-CoV-2に再感染した2人の患者から分離されている。この変異株については、in vitroで、回復期血漿に含まれるポリクローナル抗体による中和が起こりにくいことが示されている。 4番目は、マナウス市で第2波を起こしたSARS-CoV-2の感染性が、それまで循環していたウイルス株に比べ高い可能性だ。P.1株が最初に発見されたのがマナウス市だった。予備的な分析では、2020年12月に評価された31人中13人がP.1株に感染していた。しかし2020年3月〜11月に評価された26人からはP.1株は見つかっていない。P.1株は、英国と南アでも流行しており、感染性が高まっていると報告されているB.1.1.7株およびB.1.325株と共通する変異を保有する。P.1株が高い感染性を持つのかどうかを早急に調べる必要がある。 SARS-CoV-2の再流行が、感染性が高くなった変異株によるものならば、そうした変異株の特徴を急いで解明する必要がある。反対にマナウス市に再流行が、獲得した免疫力の衰えによるものならば、同じシナリオは世界の他の地域でも起こる可能性がある。 各地域での血清学的およびゲノム学的サーベイランスは重要であり、今後はさらに再感染者の同定も行う必要がある。一方で、国民全体にマスクの着用や身体的距離の維持といった対策の実施を求め続けることも大切だ。懸念されている既存のワクチンの、P.1株その他の変異株に対する有効性の評価も急がれる。さらに、新たな変異株が検出された場合には、遺伝学的、免疫学的、臨床的、疫学的な特性を速やかに分析する必要がある、と著者らは述べている。 原題は「Resurgence of COVID-19 in Manaus, Brazil, despite high seroprevalence」、概要はLancet誌のウェブサイトで閲覧できる |