日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて

【概要】
1.経緯
  (1)  日本脳炎ワクチンによるADEM(急性散在性脳脊髄炎)の健康被 害については、予防接種法に基づき、平成3年度以降、因果関係が否定できない 又は肯定できるとして、13例(うち重症例4例)の救済を行ってきた。
  (2)  本年5月、疾病・障害認定審査会において、現行の日本脳炎ワクチ ンの使用と、重症のADEMの事例の発症の因果関係を肯定する論拠がある旨の 答申が出され、5月26日、厚生労働大臣による因果関係の認定をしたところで ある。
  (3)  これらは、いずれも厳格な科学的証明ではないが、日本脳炎ワクチ ン接種と健康被害との因果関係を事実上認めるものである。
  (4)  従来、予後は良好であると考えられてきたADEMについて、日本 脳炎ワクチン以外での被害救済例は2例であるが、日本脳炎ワクチンでは14例 の救済例があり、そのうち、5例目の重症な事例が認知された状況においては、 よりリスクの低いことが期待されるワクチンに切り替えるべきであり、現在のワ クチンについては、より慎重を期するため、積極的な接種勧奨を差し控えるべき と判断した。

2.厚生労働省の対応
  (1)  マウス脳による製法の日本脳炎ワクチンと重症ADEMとの因果関 係を肯定する論拠があると判断されたことから、現時点では、より慎重を期する ため、定期予防接種として現行の日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨は行わない よう、各市町村に対し、地方自治法に基づく勧告を行った。
  (2)  流行地へ渡航する場合、蚊に刺されやすい環境にある場合等、日本 脳炎に感染するおそれが高く、本人又はその保護者が希望する場合は、効果及び 副反応を説明し、明示の同意を得た上で、現行の日本脳炎ワクチンの接種を行う ことは認められる。
  (3)  日本脳炎の予防接種を継続する必要性については、専門家から指摘 されているところであり、よりリスクの低いと期待される組織培養法によるワク チンが現在開発中であることから、供給できる体制ができたときに供給に応じ接 種勧奨を再開する予定。
  (4)  各市町村において、日本脳炎の予防接種に関する問い合わせに対応 するとともに、念のため、戸外へ出るときには、できる限り長袖、長ズボンを身 につける等、日本脳炎ウイルスを媒介する蚊に刺されないよう注意喚起を行う。


日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨差し控えQ&A

日本脳炎について
Q1  日本脳炎とは、どのような病気ですか?
A1  日本脳炎とは、日本脳炎ウイルスの感染によっておこる中枢神経(脳や 脊髄など)の疾患です。ヒトからヒトへの感染はなく、ブタなどの動物の体内で ウイルスが増殖された後、そのブタを刺したコガタアカイエカ(水田等に発生す る蚊の一種)などがヒトを刺すことによって感染します。   東アジア・南アジアにかけて広く分布する病気です。

Q2  日本脳炎の症状はどんなものですか?
A2  ウイルスを持つ蚊に刺されたあとも症状なく経過する(不顕性感染)場 合がほとんど(過去には、100人から1000人の感染者の中で1人が発病すると報告 されている)ですが、症状が出るものでは、6〜16日間の潜伏期間の後に、数 日間の高熱、頭痛、嘔吐などで発病し、引き続き急激に、光への過敏症、意識障 害(意識がなくなること)、神経系障害(脳の障害)を生じます。   症状が出る可能性は少ないのですが、症状が出た人のうち、約15%が死亡に 至る病気といわれており、幼少児や老人では死亡の危険は大きくなっています。

Q3  日本脳炎の患者数は、国内でどのくらい発生していますか?
A3  近年の患者の発生は年間数名で、おもに中高齢者となっています。

Q4  日本脳炎は地域によっては感染する心配がきわめて低いというのは本当
ですか? A4  日本脳炎は定期の予防接種の対象疾患となっているのですが、その発生 状況等を検討して、予防接種を行う必要がないと認められる地域を都道府県知事 が指定することができるようになっています。   これを踏まえて北海道のほとんどの地域では、日本脳炎の予防接種は実施され ていません。

日本脳炎ワクチンについて
Q5  日本脳炎ワクチンとはどんなワクチンですか?
A5  現行の日本脳炎ワクチンは、日本脳炎ウイルスを感染させたマウス脳の 中でウイルスを増殖させ、高度に精製し、ホルマリン等で不活化(毒性をなくす こと)したものです。
  ワクチンの精製度は極めて高いのですが、極めて微量ながら脳組織成分が残存 する可能性や、不純物が混入する可能性が完全に否定できるものではありませ ん。一般的な副反応としては、発熱、注射部位の腫れや痛みがみられます。   また、きわめてまれに強いアレルギー反応がおこることがあります。

Q6  現行の日本脳炎予防接種はどのようになっていますか?
A6  予防接種法にもとづく現行の定期予防接種スケジュールは以下のように なっています。
1期(3回)  初回接種(2回):生後6か月以上90か月未満(標準として3歳)   追加接種(1回):初回接種後おおむね1年後(標準として4歳)
2期(1回)  9歳以上13歳未満の者(標準として9歳)
3期(1回)  14歳以上15歳以下の者(標準として14歳)

急性散在性脳脊髄炎(ADEMアデム)について

Q7  ADEM(アデム、急性散在性脳脊髄炎)とは、どのような病気ですか?
A7  ある種のウイルスの感染後あるいはワクチン接種後に、稀に発生する脳 神経系の病気です。ワクチン接種後の場合は、通常接種後数日から2週間程度で 発熱、頭痛、けいれん、運動障害等の症状があらわれます。
  ステロイド剤などの治療により完全に回復する例が多く、良性の疾患とされて いまが、運動障害など神経系の後遺症が10%程度あるといわれています。   麻疹(はしか)、水痘(みずぼうそう)、ムンプス(おたふくかぜ)、インフ ルエンザなどのウイルスやマイコプラズマなどの感染後にみられ、病原体感染の 後におこることもあるといわれています。
  ワクチン接種は毎年たくさんの子どもにおこなわれるので、ワクチン後に ADEMがみられた場合は、ワクチン接種によるものとウイルスなどの病原体の 感染によるもの、あるいは原因不明のものとの区別が困難です。
  現在の日本脳炎ワクチンは、製造の過程で微量ながらマウスの脳組織成分が混 入する可能性があり、この成分によってADEMが起こる可能性が否定できない とされています。

Q8  日本脳炎ワクチンを接種したことによるADEMの副反応は、どれくら いあるのですか?
A8  予防接種後にADEMがみられたとして、因果関係は明らかでないまま 予防接種副反応報告に報告された例は平成6年度から現在までに21件みられます。   予防接種後にみられたADEMの患者さんで、予防接種法に基づく健康被害救 済制度の認定を受けた方の数は、平成元年度から平成17年5月までで14件です。

Q9  日本脳炎ワクチンを接種することによって、ADEM以外に、どのよう な副反応が起こりますか?
A9  まれに接種後直後から翌日に、発疹(ほっしん)、じんましん、そう痒 (かゆみ)等の過敏症がみられることがあります。   また、全身症状としては、発熱、悪寒(さむけ)、頭痛、倦怠感(けんたいか ん)、はきけなど、接種部位の局所症状としては、発赤、腫れ、痛みなどが認め られることがありますが、通常は2〜3日中に消失します。

今回の積極勧奨差し控え措置について
Q1 0 定期予防接種として、日本脳炎ワクチンの積極的な勧奨を差し控えた 理由はなんですか?

A1 0 マウスの脳を用いた現在の日本脳炎ワクチンとそれを接種した後の重 症ADEM発生との因果関係があるとの判断が下されたことから、現時点ではよ り慎重を期するため、定期予防接種として現行の日本脳炎ワクチン接種の積極的 勧奨は行わないよう、各市町村に対し勧告を行ったものです。
Q1 1 日本脳炎の予防接種を受けたのですが、ADEMにかかる心配ないの でしょうか?

A1 1 日本脳炎ワクチンの副反応としてのADEMは、70―200万回の接種に 1回程度、きわめてまれに発生すると考えられています。万が一発症しても通常 は軽快し、その後の再発はみられません。
  予防接種によると考えられるADEMでは、通常、ワクチン接種後数日から2 週間程度の間に発熱、頭痛、けいれん、運動障害等の症状があらわれます。症状 が疑われる場合には、医療機関において医師の診察を受けてください。接種をう けても症状のない場合は、健康診断や検査を受ける必要はありません。

Q1 2 万が一、重い副反応が起こったら補償はありますか? 予防接種が原 因と特定されなければ補償されないのでしょうか?

A1 2 予防接種法に基づく予防接種により疾病、障害、死亡等の健康被害を 生じた場合には、被害者に対して予防接種健康被害救済制度によって、医療費の 支給、障害年金の支給等を行うこととなります。なお、救済制度の対象となる健 康被害は、厚生労働大臣が予防接種との因果関係を認定したものに限ります。

Q1 3 今回の措置により、日本脳炎が流行することはありませんか?

A1 3 日本脳炎の感染源は日本脳炎ウイルスを媒介する蚊ですが、媒介蚊に 刺されたからといって必ずしも発病するものでもありません。また、わが国では 1970年代以降患者数は著しく減少しましたが、その理由としては予防接種の普及 の他に、蚊のウイルス保有率の減少、環境改善による蚊に刺される機会の減少な ど複数の要因の組み合わせの結果と考えられています。
  そのために国内の多くの地域では、予防接種を行わなくても直ちに流行する機 会は著しく減少していると考えられます。
  また、すでに予防接種をうけている年齢層では、ある程度の免疫を持っている と考えられます。
  これらのことから、本年予防接種をうけるべき年齢の方が予防接種をうけなく ても、日本脳炎に感染し発症する機会は極めてまれと考えられます。
  ただし、一般的な注意として戸外へ出かけるときには、念のためできる限り長 袖、長ズボンを身につけるなど、ウイルスを持った蚊に刺されないよう十分な注 意をすることをお勧めします。

今後の日本脳炎予防接種と新ワクチンに関して

Q1 4 組織培養法による新しい日本脳炎ワクチンは、よりリスクが低いもの と期待されているそうですが、本当なのですか? A1 4 組織培養法によるワクチンとは、試験管内で培養したヒトや動物の組 織・細胞でウイルスを増殖させるため、不純物が混入する可能性は低く、リスク はより低いものと考えられています。

Q1 5 新しい日本脳炎ワクチン(細胞培養ワクチン)ではADEMは発生しない のでしょうか?

A1 5 組織培養法によるワクチンとは、試験管内で培養したヒトや動物の組 織・細胞でウイルスを増殖させるため、理論的には接種後のマウス脳成分による 問題が起こる可能性はなくなります。

Q1 6 組織培養法による日本脳炎のワクチンが承認されるまで、日本脳炎の 予防接種は受けられないのでしょうか?

A1 6 日本脳炎の流行地域へ渡航する者、蚊に刺されやすい環境にある者な ど、日本脳炎に感染するおそれが高い場合などで、本人又は保護者が特に希望す る場合には、今回の措置と日本脳炎ワクチンの効果及副作用を医師から説明を受 け、同意書に署名した上で現行の日本脳炎ワクチンの接種を受けることは差し支 えありません。

Q1 7 東南アジア諸国等日本脳炎の汚染地域に旅行する場合は、予防接種を 受けるべきですか?

A1 7 日本脳炎の流行地域(朝鮮半島、台湾、中国、ベトナムなど)へ渡航 するなど、日本脳炎に感染するおそれが高い場合には、今回の措置並びに日本脳 炎ワクチンの効果及副作用を医師から説明を受け、同意書に署名した上で現行の 日本脳炎ワクチンの接種を行うことは差し支えありません。   日本脳炎ワクチンの接種は海外渡航の際に義務付けられてはいませんが、状況 によっては勧奨している国もあります。最寄りの検疫所や医療機関でよく相談の 上自らの判断を行ってください。
厚生労働省健康局結核感染症課